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許し #1 side Y
「葉祐...葉祐...」
冬真が俺を呼ぶ...
でも...俺は振り向かない...
帰宅の途、俺は冬真の手首を掴み、グイグイと引っ張って歩く。
はぁ...はぁ......
冬真の呼吸が粗く、早くなる...
あっ......苦しいんだ......
俺は少しだけ歩みを緩める。だけど...手首はグイグイ引っ張ったまま...
「よ...葉祐......痛い......手首...」
玄関先で冬真が途切れ途切れに言い、そこで、冬真の手首を離した。靴を脱いだ冬真を無言で横抱きにし、そのまま寝室まで運び、ベッドに組敷いた。
冬真は体を震わせ、苦しそうに俺を見ていた。
それに構わず、そのままキスをした。冬真の意思など関係ない。俺の舌だけが意思を得たかの様な、本能剥き出しのキス。こんなにも切ないと感じる後にも先にもキスはなかった。
冬真を見ると何かを諦めるように、悲しげに瞳を閉じていた...
くそっ!何でだよ!
そのまま、冬真が着ていたロングTシャツを力任せに引き裂いた。冬真の美しい陶器のように白い肌と、それに反比例する茶褐色の傷痕。そして...控え目な桃色の二つの果実が露になった。
冬真はぎゅっと目を瞑る...
俺は冬真の首筋に食らい付いた。
くそっ......!こんなこと......こんなこと......したいワケじゃないのに......何でだよ......
涙が徐々に溢れて出して......力を失い...ただただ...冬真の胸でひたすら泣いた...
「ごめん......」
冬真が言った。
「こんなに......こんなに好きなのに!ずっと......ずっと一緒にいたいのに!それなのに......」
『身を引くって何だよ!』
そう言いたかったけど、言葉にならなかった...
「ごめん...ごめんね...葉祐。葉祐のこと...とても考えたつもりだったけど......傷付けちゃったね...ごめん......」
冬真はそう謝った。
「ねぇ、葉祐?」
「......」
「俺のこと幸せにして...葉祐の手で......」
「えっ?」
「それが......葉祐の幸せに繋がってるんでしょ?おばさんが教えてくれたの。葉祐のそばで...元気で幸せに生きる。それだけで...葉祐は幸せなはずだって。俺...いつだって葉祐には幸せでいて欲しい。葉祐の幸せが...俺の幸せに繋がっているのなら......俺の幸せは…葉祐なしじゃ考えられない.。だから...葉祐。葉祐の手で...俺を幸せにして......」
「だったら....もう...身を引いて...思い出と生きるなんて...言わないでくれ...」
「うん。もう言わない。でも......子供産めなくて...ごめんね。」
「......お互い様だろ...?」
「うん...」
冬真の胸から離れ、改めて冬真を見ると、一気に血の気が引いた。
指の跡がクッキリとつき、真っ赤になった左手首。ベッドにはビリビリに引き裂かれた服...
頭に血がのぼっていたとはいえ、俺は人として最低で、酷いことをしてしまった......
「冬真...ごめん......俺......俺......」
「大丈夫だよ。俺は大丈夫。」
冬真は静かに微笑んだ。
いつものように美しく...清らかに...
「その代わり、葉祐のシャツ貸して。そうすれば、手首は自然に隠れるから。」
「俺......俺......」
動揺してしまい、言葉も出せない俺を冬真はそっと抱きしめ、背中を撫でながら言う......
「葉祐は悪くない。悪くないんだよ。悪いのは弱虫だった俺。葉祐は悪くない.。分かった?」
冬真はこうして......傷付きながら、どれだけの物を許して来たのだろう...
そう考えると......増々苦しくなった。
冬真はそれを察したのか、今度は俺の頭を撫でながら言う...
「着替えたらトースト焼こうよ。苺ジャムトースト。半分ずつ食べよう。そして......キスしよう…」
顔を上げて冬真を見れば、そこにはやっぱり、美しく清らかな笑顔があった。
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