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満を持して #2 side K (Kohsuke ~Y´ father ~)

「俺......冬真を笑顔にしてやりたい、幸せにするにはどうしたら良いのか...そればかり考えてた。なのに、冬真はいつか身を引こうって考えていて...冬真がまた目の前から去ろうとしている...そう考えたら...怖くて...冬真は俺のもの...そう確証が欲しくて...力任せに冬真を組み敷いた。でも...本当はそんな力任せみたいなことしたくない。だから...服を裂いて...辞めた...」 「そっか...」 「組み敷いた時、冬真、全てを諦める様に寂しげに目を閉じて...俺を受け入れようとしていた。どう考えても俺の方が悪くて...最低なのに...冬真...謝るんだ。『傷付けてごめん』って。『葉祐は悪くない』って。冬真はこうして自分を傷付けながら、今までどれだけの物を許して来たんだろうって考えたら、苦しくなって...今度は、俺自身が冬真を傷付けたものなってしまって、冬真は心のどこかで俺のこと、軽蔑するんだろうな...って考えたら...悲しくて...苦しくて...どうしたらいいのか...分からなくて...」 「なぁ?葉祐。」 「うん?」 「お前、冬真を甘く見てるんじゃないか?」 「えっ?」 「俺が思うにさ、冬真は相当深い情愛を持ったヤツだと思うんだ。だってさ、愛を貫いた両親の間に生まれた子供だぜ?まぁ、科学的な根拠は一切ないけどさ。冬真のお前に対する愛情は、お前が思っている以上に深くて広いよ。たけど、残念なことにもらえるはずの愛情をもらえなくて、体のせいでやりたいことも出来なくて、外部とも遮断された日々を過ごしてさ。そりゃ~誰だって劣等感抱くよな?」 「うん...」 「劣等感でいっぱいの冬真を、お前は何の偏見もなく、ありのままのアイツを受け入れる。冬真は嬉しいよな?ここまではわかる?」 「うん...」 「情愛の深い冬真は、お前から楽しい日々をもらって、ありがたい、何か返したいって、ずっと思ってた。でも、ある時、ふと思ったんだ。自分には結局、何も出来ないんじゃないかって。一番大事なお前の子孫すらも残すことが出来ない。それどころか、お前だけじゃなく、俺や母さんをも傷つける。申し訳ない気持ちでいっぱいになっただろうな。自分が幸せだと感じれば感じるほど、これが葉祐の本当の幸せになるのか...って…ずっと考えたんだと思う。で、最終的に出した答えが...」 「身を引く?」 「そう。お前と初めて出会って、別れてから15年...冬真はお前との思い出を支えにして生きて来た。再会して、また、これから生きて行くだけのお前との思い出を蓄えていこうって思ったんだろう。でも、それは間違ってるって、引け目に感じている母さんから言われて、改めて考えんだろう。お前の幸せのためと考えていたことが、実は全く違かった。だから、お前に謝った。冬真はお前を軽蔑するどころか、そこまで傷付けたのかと、逆に苦しんでいるんじゃないのか?」 「冬真......」 「アイツは今、何よりも大切なお前を傷つけたと、苦しくて、悲しくて仕方がないと思うぞ。お前は今、どうするべきか分かるよな?」 「うん...」 「じゃあ、おむすび食べろ!食べたらそばに行ってやんな!今、アトリエで仕事してるから。」 葉祐は貪るようにおむすびを食べた。 その姿はまるで子供そのもの。 葉祐も冬真も大人になった。 背もとっくに越えられた。 それでも時々... 葉祐は頭を撫でてやらないといけなくて... 冬真は背中を撫でてやらないといけなくて... 俺はおちおち「第二の人生」を謳歌している場合じゃない。 でも、全然嫌な気はしない。 むしろ楽しみだったりする。 その時、葉祐がむせた。 「ほれ。お茶!そんな慌てなくても、冬真はちゃんとアトリエにいるよ!」 そう言うと、葉祐は子供の頃の面影そのままに微笑んだ。

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