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不穏な電話 #1 side Y
4か月が過ぎた。
親父は無事に退職の日を迎え、今は母さんと二人、以前、冬真が案内してくれた花壇のそばの家で生活している。母さんは毎日冬真と一緒にいたがる親父を何とか押さえつけ、今後の俺達の事を考え、冬真と一定の距離を保っていた。それでも週に2~3回は食事に誘い、食卓を共にしていた。
俺の方は、異動がいよいよ来月に決まったものの、ひとまず3年間という期限付きになってしまった。
斎藤曰く、
『やっぱり、お前がいなくなるのかなりの痛手なんだ。でもまぁ、K町のショッピングパーク成功させてさ、あの辺りで2店舗3店舗と別のコンセプトの店増やせば、良いんじゃね?もっと長く留まらせざるおえないだろ?』
なるほど…仕事を頑張れば、冬真との時間も増えるってワケかぁ......
一緒に暮らしたいというお互いの意思を確認してから、俺はいつでも冬真の家に移動できるようにと、家の片付けと段ボール詰めの作業を少しづつ始めた。そのおかげで、引っ越し作業は随分と楽な物になっていた。しかし、その分、会社の方は引き継ぎ等で忙しく、冬真の家にはひと月以上行けていない。そればかりか、ここ数週間は、休日返上の残業が続いていて、ビデオ電話のタイミングも合わず、ここ最近の連絡ツールはメールばかりだった。
『なかなか行けなくて、連絡も出来なくてごめんな。』
とメールをすると、
『大丈夫。もう少ししたら、毎日一緒だもん。お仕事頑張って。』
と返って来た。
あまりにもいじらしい、冬真らしい文面に、俺はディスプレイを見て、思わずにやけてしまう。
気が付けば今日は木曜で、冬真はカルチャーセンターでの仕事の日だった。
今日明日、必死に頑張って、今週末は会いに行こう!
昼休みにはそう考えていた。
不穏な連絡が入ったのは、それから7時間ほど経過した、19時過ぎのことだった...
スマホが鳴り、ディスプレイを確認すると、母さんからだった。
「もしもし。」
「あっ、葉祐?今、大丈夫?」
「うん。まだ会社だけど、これから晩飯でも買いに行こうかなと思ってたとこ。」
「冬真がさ...」
「冬真に何かあった?」
一瞬...ドキッとする......
「帰って来てないみたいなの...」
「えっ?こんな時間なのに?」
「今日はカルチャーセンターの日でしょ?だから、割りに遅くに部屋の灯りが点くんだけど、今日はまだ真っ暗なのよ。」
「センターは?連絡した?」
「うん。さっきお父さんが...でも、いつもの時間に帰ったって。最近、バスの最終が延びたから、ただ買い物してるだけかもしれないんだけど...」
「携帯は?」
「それがね...繋がらないのよ。ずっと。」
「わかった。ひとまず、終バスの時間まで様子を見よう。」
「うん。」
「終バスの時間になったら、もう一度連絡して!」
「分かった。」
一度通話を切る。そして、2時間後に掛かってきた電話の結果も同じで、冬真は終バスに乗っていなかった。俺は母さんに、絹枝さんに連絡するように伝え、電話を切った。
冬真...どうした?何があった?
母さんからの電話を切った後、すぐに着信音が鳴った。ディスプレイを見れば、全然知らない番号で...
俺は恐る恐る通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもし。失礼ですが、そちらは海野葉祐さんの携帯で間違いないでしょうか?」
相手は男性で、やっぱり聞いたことがない声だった。
「はい。」
「海野葉祐さんでいらっしゃいますか?」
「はい。」
「こちらは東京都S駅の鉄道警察ですが、岩崎冬真さん、ご存じでしょうか?」
俺の背中に嫌な汗が一つ流れ落ちた。
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