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不穏な電話 #2 side Y
警察?何故...?
「岩崎冬真は私の友人ですが...冬真に何かあったんですか?どうかしたんですか?何かに事件に巻き込まれたんですか?」
俺は驚き、矢継ぎ早に警官に尋ねた。
「S駅構内で具合が悪くなりまして...今、こちらで保護しています。」
「発作が起きたんですか?」
「発作?いえいえ。軽い貧血のようです。ベンチでうずくまっていたところを、たまたま帰宅途中の医師が通り掛かりましてね。こちらの方に送り届けてくださいました。その方がおっしゃるには、少し横になっていれば大丈夫とのことでしたので、今、こちらの仮眠室で休んでいます。海野さん、大変申し訳ありませんが、こちらに迎えに来てくださることは可能ですか?」
「もちろん、大丈夫です。今から向かうと、20分ほど掛かりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。ちょうど良い頃合いです。詳細はこちらに到着された時、お話しますね。」
「ありがとうございます。直ぐに向かいます。」
通話を切ると、まず、母さんに連絡し、冬真が東京にいたことを告げた。冬真が東京にいた...そのことに母さんは、ひどく動揺していた。これ以上、余計な心配は掛けたくなかったので、具合が悪いことは伝えず、絹枝さんに連絡して欲しいとだけ依頼し、後はこちらに任せて心配しないようにと伝えた。
S駅の警察詰所に到着すると、先程の警官が出迎えてくれた。
「すみません。わざわざ。」
「いいえ。お手数お掛けしました。彼の自宅は、私の実家のすぐそばでして…両親も冬真がなかなか帰宅しないので、心配していたところでした。」
「そうでしたか。さぁ、どうぞ奥にお入りください。」
そう言われて通されたのは、一番奥にある応接室で、警官は座るように促し、お茶を差し出した。
「先程お話した通り、駅で具合が悪くなって、こちらに運ばれたまではいいんですけどね。その後、『大丈夫だから、一人で家に帰る』の一点張りでして...家はどこかと聞けば、自宅はN市方面とのこと。具合が良くないのは明らかですから、一人で帰す訳にもいかないし、ご家族もいないとのことでしたので、こちらとしてもどうすべきか悩みましてね。取り敢えず、一時間だけ休んだら解放する約束で、仮眠室で横になってもらいました。この一時間で迎えに来てくれそうな方を探そうと考えたんです。」
「それで...私を?」
「ええ。途中で一度だけ、どこかへ連絡しようとしたのかスマホを取り出して、着信履歴を開いたんです。一人で帰す訳にもいきませんから、何か情報を得ようと、悪いと思いながらも、チラッと覗きまして...一番上にあったあなたのお名前と番号を暗記したんです。でも、岩崎さんは結局、どこへも連絡しませんでした。それからは『大丈夫だから、一人で帰る』ばかりで...気持ちを解そうと『何しに東京へ来たのか』尋ねると、今度は黙り込んでしまって...」
「お手数お掛けし、申し訳ありません。ですが、連絡を頂きまして本当に助かりました。こちらの勝手な言い分になりますが、冬真は人生の大半を病院で過ごし、それ以外は、持病のために、ひっそりと森の中で生活しているので、世間知らずな部分がありまして...」
「そうでしたか...持病もある上に、これだけ人の多い場所で緊張もしただろうな。あまり注意しないであげてください。そうまでして来なくてはならない、彼なりの理由があったんでしょうから...言いたくないんだろうけどね。」
「はい......お気遣いありがとうございます......」
冬真がそうまでしてこっちに来た理由......
それは...きっと...
たった一つ......
「そろそろ一時間経つかな。声掛けてきますね!」
警官は仮眠室とおぼしき部屋に入って行った。しばらくして、警官に支えられ、冬真が部屋から出てきた。中で説明を受けたのか、冬真は俺を見ても、さほど驚きはしなかった。しかし、その姿はまさに家出が見付かった子供のようで…冬真は悲しいほど小さくなっていた。
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