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衝撃 #1 side Y

一緒に暮らし始めて、気付いたことが多々ある。 冬真の一日、一週間はかなり忙しいということ。 それは...全て俺のためだということ。 冬真の一日は、リスの餌やりからスタートする。朝食を作り、俺を見送ってから家事を一通りこなし、仕事を始める。休憩らしい休憩は、朝食と一緒に作ったおむすびを食べる時ぐらいで、それ以外は黙々と作業を進める。そして、どんなに気分が乗っていても、16時には仕事を辞める。それは、ベストな状態で俺を迎えるのに、逆算して算出した時間らしい。土日は俺が家にいるからという理由で、どんなに忙しくても、急ぎの仕事以外は絶対にしない。ただでさえ忙しいのに、これに週に一度の診療所の診察とカルチャーセンターの仕事が加わり、月に一度の大学病院の診察も加わる。冬真のウィークデーの負担は相当なもので、冬真の体が心配な俺は、少しでも楽になるように、今まで様々な提案をしてきた。 メシは交代で作ろう。 掃除は朝、俺がやる。 風呂掃除は帰って来てから...俺に任せて! 等々数えきれず... 「俺は葉祐と違って通勤しているワケじゃないし...普段、家にいるんだから...」 これを理由に却下され続け、 やっと採用されたのは... 『土日の家事は、二人で一緒にやる』 たったこれだけ。 この経験から俺はある事実に気が付く。 冬真は初めての家出をしてから、表立って心配されることを嫌がるようになった。 冬真の負担をどうにか減らしたい...... 「なぁ、冬真。木曜だけは外でメシ食べようよ!」 と提案するものの、帰って来る返事は... 「いいよ...家で......」 ここで『お前の体が心配なんだよ。』なんて言おうものなら... 「ありがとう......でも......大丈夫。心配しないで...」 と却下され、無言になるのが関の山。 だから、俺は最近考えた『冬真攻略法』を試してみる。 「いや、せっかくさ、二人とも似たような時間まで、近所で仕事しているんだからさ...木曜だけはデートして帰ろうよ!なっ?」 「デート......?」 「そう!そう!デート!デート!」 冬真は急に頬を朱に染めて、やっと首を縦に振る。 そう...冬真は『一緒に』と『デート』という言葉に弱い。だから、ここぞという時、俺はこの言葉を使用する。 これが、一緒に暮らし始めた約1か月で培った『冬真攻略法』。 ところが、今日の夕食時、冬真が珍しいことを口にした。 「ねぇ...葉祐......」 「うん?」 「今度の金曜日なんだけど...」 「あっ、大学病院だろ?その日、有給取ったんだ。一緒に行くからね。冬真がどんな病院で、どんな検査してるのか知りたいし...」 「うん......そのことなんだけど...帰りに外で食事をしてもいいかな......?」 「うん。もちろん!でも、珍しいなぁ。冬真が外食したいなんて...」 「あ......でも......二人でじゃないんだ......」 「えっ?」 「もう一人いるんだ......その人は女性でね......その人とは......月に一度のペースで...食事をしていて......それでね......」 冬真が何か続けて言っていた... だけど...ショックでもう耳には入ってこない... 冬真が俺以外の人と食事に行っていた? しかも女性で......月イチで?

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