100 / 258
甘々な人々 side Y
それから二人が食事をする際、いつも利用するというイタリアンの店に入った。
二人のオーダーは大概決まっていて、パスタセットとレディースセット。だが、レディースセットを食べるのは冬真で、岩代女史がパスタセットだという。
「岩崎は量が食べられないからさ、ちょっと少な目のレディースセットで充分なんだよ。でも、今まで一度もデザートまでたどり着けたことないんだよね~」
「今日は絶対...大丈夫。」
「もう何回聞いたかね~そのセリフ。毎回言ってるよね?」
「うっ......今日は...葉祐がいるから...大丈夫。」
冬真が俺をチラッと上目使いで見た。
「レディースセットは最後にパンナコッタが付くんだ。でも...いつも食べたことがなくて...パンナコッタ...食べてみたい......」
この仔犬の様な潤んだ目で言われると...俺......弱いんだよな......
「分かった。でも、なるべく頑張ってな。それとバランス良く食べろよ。どうしてもダメなら手伝ってやるから...」
「うん......ありがとう...葉祐......」
冬真の表情が一気に明るくなった。
「けっ!甘い!甘いね!甘々だね!どいつもこいつも...みんな岩崎を甘やかしてばかり!」
「岩代さんもデザート頼んだら?岩代さんもパンナコッタにする?あっ、それとも...この後、家に帰るだけならワインにする?」
岩代女史の悪態の後、間髪入れず俺は問う。
「ワイン......」
「了解!」
「葉祐......」
冬真に呼ばれて、振り向けば、その顔にまさしく書いてある......
『僕も。』
「冬真はダメ。」
「どうして......?」
「だって...薬...出たんだろ?」
「うん......でも......こんな時じゃないと...葉祐がいる時じゃないと......岩代さんとも...お酒...飲めないし...」
そっか......冬真の初めての飲み会は、俺と天城医師との飲み会で、あれ以来、冬真は酒を飲んでいない。あれが初めての飲み会なんだから、同級生と酒を飲むなんてしたことないだろう…
経験させてやりたい...
心からそう思う...
でも......
「薬見せてみな!」
岩代女史が言い、冬真は薬を差し出した。
「ふんふん...なるほど......まぁ、岩崎は舐める程度しか飲めないだろうし、今夜晩酌するとも思えないから、大丈夫じゃない?遅くとも就寝前にはきちんと薬飲めよ!分かった?」
「うん!」
「岩代さんは随分薬に詳しいんですね。」
俺が尋ねると、岩代女史は、
「その辺、私は餅屋だからね~」
と言った。疑問に思っていると、冬真が説明してくれる。
「岩代さんはね...大学で薬の研究をしているんだよ...」
「なるほど...餅は餅屋かぁ。でもなぁ....冬真、絶対寝ちゃうしなぁ......う~ん......」
「葉祐君さ~あんた付いてるもの付いてるんだろ?男なら背負って帰ってやるぐらいの心意気はないのか?」
へぇ......口は悪いけど...冬真を援護してる。
岩代女史も...相当...冬真に甘いよね...
俺は背負って帰っても構わないけど...
そんな姿を親父や母さん、真鍋さんに見られるの...
冬真が堪えきれないでしょ?
う~ん......背負うかぁ......
背負う.......
あっ!
俺は二人の離席の許可を得て、連絡を2件入れる。席に戻り、冬真を見つめて言う。
「よし!今日は飲んで良いよ!その代わり、今晩は西田さんのところに泊まるよ。そうすれば、背負って帰ることになっても、親父や母さん、真鍋さんに見られずに済むだろ?それに、西田さんに元気になった冬真を見せてあげられるし...」
「うん。僕も西田さんに会いたい。元気で幸せに過ごしていること...教えたい。今があるのは...西田さんのおかげでもあるから...」
冬真が満面の笑みを俺に向けた。
この嬉しそうな笑顔は......
きっと......
生涯忘れられないものになること間違いないだろう。
ともだちにシェアしよう!