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甘々な人々 side Y

それから二人が食事をする際、いつも利用するというイタリアンの店に入った。 二人のオーダーは大概決まっていて、パスタセットとレディースセット。だが、レディースセットを食べるのは冬真で、岩代女史がパスタセットだという。 「岩崎は量が食べられないからさ、ちょっと少な目のレディースセットで充分なんだよ。でも、今まで一度もデザートまでたどり着けたことないんだよね~」 「今日は絶対...大丈夫。」 「もう何回聞いたかね~そのセリフ。毎回言ってるよね?」 「うっ......今日は...葉祐がいるから...大丈夫。」 冬真が俺をチラッと上目使いで見た。 「レディースセットは最後にパンナコッタが付くんだ。でも...いつも食べたことがなくて...パンナコッタ...食べてみたい......」 この仔犬の様な潤んだ目で言われると...俺......弱いんだよな...... 「分かった。でも、なるべく頑張ってな。それとバランス良く食べろよ。どうしてもダメなら手伝ってやるから...」 「うん......ありがとう...葉祐......」 冬真の表情が一気に明るくなった。 「けっ!甘い!甘いね!甘々だね!どいつもこいつも...みんな岩崎を甘やかしてばかり!」 「岩代さんもデザート頼んだら?岩代さんもパンナコッタにする?あっ、それとも...この後、家に帰るだけならワインにする?」 岩代女史の悪態の後、間髪入れず俺は問う。 「ワイン......」 「了解!」 「葉祐......」 冬真に呼ばれて、振り向けば、その顔にまさしく書いてある...... 『僕も。』 「冬真はダメ。」 「どうして......?」 「だって...薬...出たんだろ?」 「うん......でも......こんな時じゃないと...葉祐がいる時じゃないと......岩代さんとも...お酒...飲めないし...」 そっか......冬真の初めての飲み会は、俺と天城医師との飲み会で、あれ以来、冬真は酒を飲んでいない。あれが初めての飲み会なんだから、同級生と酒を飲むなんてしたことないだろう… 経験させてやりたい... 心からそう思う... でも...... 「薬見せてみな!」 岩代女史が言い、冬真は薬を差し出した。 「ふんふん...なるほど......まぁ、岩崎は舐める程度しか飲めないだろうし、今夜晩酌するとも思えないから、大丈夫じゃない?遅くとも就寝前にはきちんと薬飲めよ!分かった?」 「うん!」 「岩代さんは随分薬に詳しいんですね。」  俺が尋ねると、岩代女史は、 「その辺、私は餅屋だからね~」 と言った。疑問に思っていると、冬真が説明してくれる。 「岩代さんはね...大学で薬の研究をしているんだよ...」 「なるほど...餅は餅屋かぁ。でもなぁ....冬真、絶対寝ちゃうしなぁ......う~ん......」 「葉祐君さ~あんた付いてるもの付いてるんだろ?男なら背負って帰ってやるぐらいの心意気はないのか?」 へぇ......口は悪いけど...冬真を援護してる。 岩代女史も...相当...冬真に甘いよね... 俺は背負って帰っても構わないけど... そんな姿を親父や母さん、真鍋さんに見られるの... 冬真が堪えきれないでしょ? う~ん......背負うかぁ...... 背負う....... あっ! 俺は二人の離席の許可を得て、連絡を2件入れる。席に戻り、冬真を見つめて言う。 「よし!今日は飲んで良いよ!その代わり、今晩は西田さんのところに泊まるよ。そうすれば、背負って帰ることになっても、親父や母さん、真鍋さんに見られずに済むだろ?それに、西田さんに元気になった冬真を見せてあげられるし...」 「うん。僕も西田さんに会いたい。元気で幸せに過ごしていること...教えたい。今があるのは...西田さんのおかげでもあるから...」 冬真が満面の笑みを俺に向けた。 この嬉しそうな笑顔は...... きっと...... 生涯忘れられないものになること間違いないだろう。

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