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決心 #3 side S ~Sayaka Iwashiro ~
12年前...
入学した中学で隣の席になった男の子は、色白でちょっと綺麗な子だった。でも...入学した二日後にはもう来なくなった。後日、担任に呼ばれ、事情を聞かされた。
『岩崎君は...体調が悪くてね、先日から保健室登校に変わったの。元気になったら、クラスに戻るけど...それまでは、保健室で勉強したりするの。岩代さん、岩崎君のお世話をしてあげてくれないかしら?』
保健室登校って何?
お世話って何するの?
正直、よく分からなかった。けれど、ひとまず引き受けた。お世話は授業やお知らせのプリント届けるぐらいで、大した仕事ではなかった。お世話係も月日が流れると共に違和感はなくなっていった。しかし、それに反してクラスメイトに対しては、違和感でいっぱいだった。なぜなら、誰も岩崎君の話をしないから。それどころか、最初からいない人みたいな雰囲気になっているから......
今日も第2保健室までプリントを届ける。第2保健室の小林先生に挨拶し、岩崎君のベッドに近づくと、岩崎君はベッドの上で、枕を背もたれに座っていた。顔色は悪いものの、笑顔で私を迎えてくれた。
「いつも...ごめんね...」
体調悪いクセに......そんなに気遣わなくていいのに…
岩崎君を見ていると、いつもそう思う。
「別に平気。これぐらい。」
「でも...早く帰りたい日もあるよね?そういう日は...きちんと断ってね...」
「うん。」
「大丈夫?」
「あっ?うん。そういう日は、別の子に頼むから、全然気にしないでいいよ!」
私は嘘をついた。
頼めるだろうけど...岩崎君の存在を忘れているような子達に頼めるワケがない。
岩崎君は綺麗な瞳で私を見つめた。ちょっとドキドキした。そのドキドキは、男の子に見つめられたドキドキなのか、嘘がバレるかもと思ったドキドキなのか、よく分からなかった。私のドキドキに反して、岩崎君はクスクス笑いだした。
「なっ...何?」
「岩代さんは...良い人なんだね...」
「えっ?何で?」
「嘘が下手だから...僕は大丈夫。仕方がないんだ。だから...岩代さんのせいじゃないよ。気にしないで。それに僕...そういうの慣れてるんだ。だから...大丈夫だよ。今はね...学校に通えるだけで...本当に嬉しいんだ。小学校はほとんど行けなかったから...だから...僕を学校に通わせてくれた人達のためにも...勉強...頑張りたいんだ...」
「......」
何だか切なかった。
こんなに良い子なのに...
ただ...体調が悪いだけなのに...こんなに悲しい思いをずっとしてるんだ...
「あのさ...言いたくなかったら...言わなくても良いんだけど...」
「うん。」
「岩崎君はどこが悪いの?」
「心臓...生まれつきだから...仕方ないんだ...」
「治らないの?」
「一応手術はしたんだけどね。」
「そっか......」
『仕方がない』
これは岩崎君の口ぐせ...
自分を奮い立たせるための...悲しい悲しい...口ぐせ...
「あっ、あのさ...勉強、解らないとこある?あれば、明日、ノートのコピー持ってくるよ!」
「本当に?でも......岩代さん...迷惑じゃない?」
「別に平気!先生にコピーお願いして、他のと一緒に持ってくるだけだからさ!」
「ありがとう...嬉しい...」
岩崎君は本当に嬉しそうに笑った。
「分からないのどこ?」
互いに教科書を付き合わせて、コピーの相談をしていると、
「岩崎君、お迎えの車が来たみたいよ。」
小林先生が言った。
「じゃあ。また明日!」
そう言い残し、第2保健室を退出した。教室までの帰り道、私は決心する。
「よ~し!岩崎君のお世話係...卒業まで続けるぞ!」
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