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岩崎の夢 #1 side S ~Sayaka Iwashiro ~
入学から4年が経過し、お世話係も5年目を迎え、私達は高校2年生になった。
この5年で変わった事は...
『岩崎君』から『岩崎』と呼び捨てになったこと。
かなり早い段階で背を抜かされたこと。
岩崎が声変わりをしたこと…ぐらい。
それ以外は体調が相変わらず不安定で、教室で授業を受けるのは困難で特に変わりはない。私のお世話係の仕事ぶりは、すでにプロの域に達していた。岩崎の苦手そうなところは言われる前にコピーをし、購買部や食堂には、ほとんど営業紛いの交渉をした。購買部には『第2保健室の友達に差し入れをしたいのだか、友達の分だけ安くしてもらえないか?』食堂では『食堂で販売するスイーツで、売れ残った口当たりの良いものだけを無料、もしくは低価格で譲ってはもらえないか?』など...ありとあらゆる交渉をした。その頃には第2保健室の存在は学校中に知れ渡っていたので、交渉はかなり高い確率で成功した。
今日もお土産とコピーを手に、第2保健室を訪れた。
「こんにちは~」
小林先生に挨拶した後、
「岩崎ぃ~」
岩崎のベッドに近づと、相変わらず顔色が悪かったけど、いつも通り笑顔で迎えてくれる。
「いつも...ありがとう...」
「岩崎、いちご牛乳と牛乳どっちがいい?」
「......牛乳...」
「マジでぇ?ここは普通、いちご牛乳でしょ?」
「だって......」
「何?」
「岩代さん...いちご牛乳飲みたいんでしょ?」
岩崎は牛乳を取り、ストローを差し、ちゅうちゅうと小動物みたいに牛乳を飲み始めた。
「ちぇっ!」
見事に図星で、私は舌打ちをした。
「いつもごめんね...牛乳代払うよ...」
「お前!私をなめてるな?私が定価で買うわけないだろが!」
「そうだけど...」
「心配するな!そっちは購買部のおばちゃんの差し入れだ!」
「お礼...言っておいて...」
「うん。それより、ほらっ!作文の宿題が出たぞ!」
私は、岩崎に原稿用紙を差し出した。
「『夢』について書いてこいだって。何度書かせりゃ気が済むのかね~中学から数えて何回書いたか分からないよ~ないものはないんだって!なぁ?」
視線を戻すと、岩崎は原稿用紙をじっと見つめていた。
岩崎の夢...それを...私は知っている...
中学の時...年に一回はこの手の作文の宿題が出され、何回か岩崎のをチラッと見たことがあった。岩崎の夢は、中学生いや、恐らく小学生の時から変わってないはずなんだ。
とても会いたい人がいて...
ずっとずっと会いたいって思ってる...
でも...理由があって...会えないんだよね...
「岩崎?」
「あっ......ごめん...この宿題...いつまで?」
「来週の月曜提出。ねぇ...岩崎?」
「うん?」
「岩崎の夢さぁ...何で実現出来ないの?」
「えっ?」
「岩崎がずっと会いたいって思ってる人、どうして会えないの?」
「......」
「あ......言いたくなければ...別に...」
「ううん。僕ね......酷いことしちゃったんだ...葉祐君に。世界で一番......大切な友達なのに...」
岩崎は伏し目がちで言った。
「葉祐君っていうんだ。岩崎の会いたい人。」
「うん.........あのね......」
その言葉を切っ掛けに、岩崎は葉祐君とのことを話り始めた。岩崎とは長い付き合いで、学校では毎日会っていたけど...岩崎の個人的な話を聞くのは、この日が初めてだった。
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