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悩める冬真 #1 side T

アトリエに置いてある小さな卓上カレンダーには... 7月のある日を赤で丸で囲んである。 この日は...葉祐の誕生日。 再会して、一緒に暮らしてから初めて迎える葉祐の誕生日。 誕生日って普通...どんなことをするの。 どんなことをすれば...葉祐は喜ぶの? プレゼント...何にしよう...... どうしよう....... 時は無情にも過ぎて行き、妙案もないまま、赤い丸で囲んだ日は徐々に近づいていた。 少し前なら誕生日のこと考えるのは、葉祐が入って来ないアトリエだけだったのに...最近では、時間や場所を問わず、考えるようになってしまって... 「冬真?」 「......えっ?......あ...なっ...何?」 「どうした?具合悪いのか?」 「ううん。そんなことないよ...どうして?」 「晩飯...全然食べてないから...」 「ううん。美味しいよ...大丈夫。」 いけない... 誕生日のこと...ついつい考えてた... 慌てて食べ始めたけど...もうすでに遅くて...... 「最近、ちゃんと食べれる様になってたから、顔色も良くなってきて、安心してたんだけどなぁ。このところ、気候が安定しないからなぁ...ちょっとしたことも油断しちゃダメなんだな。」 そう言ってダイニングから離れ、チェストの中からスケジュール帳を出し、ちょこちょこと何か書き込んだ。 あのスケジュール帳は仕事用じゃなくて、僕の体調に関する事が書いてある。『心身ともに健康にしたい』という葉祐の思いやり... あ......また心配させちゃった...... それが...一番悲しい...... 何をやっても上手くいかなくて...イヤになるよ... 気分がどんどん落ち込んで......更に葉祐に心配を掛けちゃう。負のスパイラル...... 「冬真。風呂入っておいで。」 「あっ......でも...片付け......」 「俺がやっておくから大丈夫!冬真...疲れてるみたいだから...今日は早めに寝な。」 「大丈夫...」 「でもさ、さっきからため息ばかりだよ。」 「ため息?」 「うん...難しい依頼でもあったの?仕事...」 「ううん。じゃあ...お言葉に甘えて...お風呂入って来るね。ごめんね...葉祐。元気だから...心配しないで......」 「うん。分かった。でも苦しい時は、ちゃんと言えよ!」 「うん......」 慌てて風呂場に逃げ込んだ。 自分で自分が情けなくて... 体を洗って...そのことを忘れたくて...ドボンと湯船に潜った。 どうしよう...... おばさんに相談しようかな... でも... 相談したら...何でもやってくれちゃいそうだし... 岩代さんに相談したら、パーティーと称した、ただの飲み会になりそうだし... こんな時......相談出来る人がいたらなぁ...... 葉祐が喜びそうな事や物を知ってて、僕の出来そうな範囲を分かってくれる人。 僕って本当に...つまらない人間だね… 人を祝う方法も、喜ばせ方も解らないんだもの... ごめんね......葉祐......

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