106 / 258
悩める冬真 #2 side T
と......と......ま......
とう......ま......
誰かが......僕を...呼んでるみたい......誰?
「冬真!しっかりしろ!冬真!」
葉祐?
瞼が重い......でも...葉祐が呼んでる......
目...開けなくちゃ......心配しちゃう......
「う......ん...」
「冬真!冬真!分かるか?冬真!俺が分かるか?」
「よう...すけ?」
「あー良かった~」
意識が段々戻って来て......葉祐は俺をぎゅっと抱きしめていた。
「よ......すけ......苦しい......」
「あっ!ごめん...でも本当に良かった!」
よく見れば......葉祐は泣き顔で...服はびしょ濡れ…
僕は裸で......そこは脱衣場で......
「お前、浴槽の縁に項垂れる様に倒れていたんだよ。大丈夫か?」
倒れる......?
あ......誕生日のこと......考えてたら......
頭が......ぼーっとして......それで......
でも......まだ頭が......クラクラする......
「俺が分かるか?」
返事をしたいけど......声が思うように出せない。だから...葉祐を見上げて...頷いてみせた。
「そっか。まだ頭がぼーっとするんだな?」
コクりと頷いた。
「水...飲むか?」
コクり。
葉祐がミネラルウォーターを差し出してくれるけど...頭が...ぼーっとして...手が思うように出せない。
どうしようかな……
仕方なくペットボトルを見つめていると、葉祐がミネラルウォーターを口に含んで、口移しで飲ませてくれた。
ゴクン。
冷たくて......美味しい......
ゴクン。
もう...大丈夫。また少し...ぼーっとしてきて...
ちょっと...疲れたみたい...
でも...心配しないで...
だから...精一杯...笑ってみせた。
それから......意識を失った......
これが昨晩のこと。
葉祐は今日は出勤で、何度か起こしに来てくれたけど、体がダルいのと昨日の今日で、何となく気まずくて...だから...ずっと寝ているフリをした。
葉祐に頼まれたのか...おばさんが何度か様子を見に来てくれた。
でも...理由を言わなくてはならなくなるから...やっぱり寝ているフリをした。おばさんは、僕の額に手を添えて、常に発熱していないか確認していた。
本来なら、とても恵まれたありがたい環境なのに...
葉祐......
おばさん......
本当にごめんなさい......
目に涙が滲んできて......視界がぼんやりとしていた。
その時、スマホの着信音が鳴った。
葉祐だったら申し訳ないけど...寝たフリしちゃおう...
ごめんね...葉祐...
でも、ディスプレイには意外な人の名前が表示されていた。
「もしもし......」
『久しぶり!元気?』
「もしかして...葉祐に頼まれたの......?」
『葉祐に?何も頼まれてないけど...何で?』
「ううん。」
『俺はさ、葉祐の独占欲に冬真君がそろそろ、げんなりしてる頃なんじゃないかなって思ってさ。愚痴の一つでも聞いてやろうって思ったの。何だか元気がないみたいだけど......そんなに葉祐の束縛が酷いのか?何なら俺、一言ガツンと言ってやるよ?』
あっ......いた......
葉祐が好きそうなことやものに詳しくて......
僕の出来そうな範囲を分かってくれる人。
涙が勝手に溢れてきて.....
「うっ...うっ......」
『冬真君!泣いているのか?大丈夫か?』
「うっ......助けて......助けて......斎藤さん......お願い......」
斎藤さんはとても驚いて、
『分かった!助けてやるから、何があったか、ゆっくり話してごらん。』
と落ち着いた声で言った。
ともだちにシェアしよう!