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お誘い #1 side Y

後処理を終えた後、サイドテーブルに置いた腕時計を手に取り、左腕に巻きつけた。それをゆっくりと目の高さに持ち上げ、覗き込むようにして、じっと見つめる...... 隣では意識を手放した冬真が、すやすやと眠り続けていた。相変わらずのあどけない寝顔と、この時計を買った時の冬真の気持ち...相反する二つの現実が何だかやるせなくて...泣きたい気分になった。 その気分を払拭したくて...昨晩から今に至るまでのことをずっと思い出していた。 昨日の冬真...スゲー可愛かったなぁ...... 「あっ......あのさ......葉祐......」 「どうした?冬真!真っ赤な顔して...熱が出たのかな?ちゃんと様子を見ていたんだけど...」 俺は慌てて冬真の額に手を添えた。 「熱はないみたいだけど......念のため、少し横になるか?」 「ううん......元気だから......大丈夫。それより...あのさ......」 「うん?」 「葉祐......あの......明日......俺と......デート...してくれませんか?」 「えっ?」 思わず言葉を失って、冬真を見つめた。冬真は更に真っ赤になって、恥ずかしさのあまり直視出来ないのか、俺の胸元辺りをずっと見ていた。 「ダメ......かな?」 「ううん。ダメじゃないよ!嬉しい!だって、初めて冬真から誘われたデートだもん!スゲー楽しみ!」 「良かった......」 「カーシェアリング、お願いしておく?」 「うん。でも...外泊しようかと思うんだ......」 「外泊?どうして?」 「あっ......あの......葉祐の誕生日......お祝いしたくて......初めて一緒に迎える......誕生日だから......少し早いけど......当日は平日だから......一緒に過ごせる時間短いし......いっぱい考えたんだけど......えっと......」 一生懸命何かを伝えようと頑張っている冬真。あまりにも必死過ぎて、言葉が支離滅裂で思わず笑みがこぼれた。 「ふふ...」 「えっ?何か...変なこと...言ったかな?ごめん...」 「ううん。謝らなくて良いんだよ。冬真は何も悪くない!ただね、本当に一生懸命考えてくれたんだろうな...って思ってさ。」 「うん。一生懸命考えたけど......つまらなかったら...ごめんね......」 自信がないのか、まだ迎えてもいない俺の誕生日の計画の段階で、頻りに謝り続ける冬真… 充分だよ。冬真...... お前...ちょっと前なら...こんなことも考えることなく、俯いてばかりだっただろ? 俺はさ、お前の意識が『生』に向かってるだけで...充分なんだ......

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