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迷える冬真 #1 side T
葉祐と話したい......
葉祐と会話が出来たらどんなに良いだろう......
そうしたら...きっと君は嬉しそうに笑うんでしょう?
でもね...声を出そうとすると...体を動かそうとするとね...溢れ出すように…蘇って来ちゃうんだ...同窓会の日のこと...
するとね...
僕は怖くて...とても怖くて…動けなくなってしまって…何も出来なくなってしまうんだ......
あの日…同窓会の会場で僕は…ずっと岩代さんのそばにいた。たくさんの人達の囲まれて...とても疲れてしまって...早く葉祐の元へ帰りたいって思ったんだ。岩代さんは『送る』って言ったけど...近くに葉祐がいるからって断った。葉祐に待っているようにと言われたロビーに向かおうとした時...同級生だったという男性二人に声を掛けられたんだ。全然知らない人だったけど…『元気になって良かったね。』って言われて...ちょっと嬉しかった。岩代さん以外に僕のこと覚えてる人がいたんだって。お礼を述べた後、ロビーへ向かおうとしたら…急に力づくで非常階段まで引きずり込まれた...
『騒ぐなよ!声出したら、これ...喉に差しちゃうからね。』
一人の男がそう言って、僕の喉元にナイフを突き付けたんだ...その時のナイフの冷たさが...今でも記憶に残ってる...
もう一人の男が...ハンカチで僕に猿ぐつわをして...更に結束バンドで...僕の手の自由を奪った。その男が...僕を抱き締めて言ったんだ...
『あぁ...岩崎...ずっと…ずっとこうしたかった...』
止めて!僕は君を知らない......
お願い!離れて!
『おいおい!お楽しみは部屋に行ってからにしろよ!』
『分かったよ。』
『お前の十数年分の想いを、この体にぶちこむんだろ?』
『ああ...俺がいつでも岩崎のこと考えてるのに、お前...いつの間にか...男、引き込んでるんだもんな。週末、いつも二人で俺の仕事場まで来てさ...最近じゃ...週末だけじゃなく、平日も来て俺に見せつけやがって!』
男?葉祐のこと?
仕事場で一緒にって?何?
『人の仕事場でいちゃいちゃしやがって!俺がどんな想いして見ていたか分かってる?俺...中学の時からお前のこと好きだったのにさ。お前は俺のことスーパーの従業員としてしか見てくれなくて...あの男ばっかり...くそっ!』
そのまま...脅されて部屋まで連れて行かれて...乱暴にベッドに突き飛ばされた。一生懸命逃げようと...もがいていたら...
『動くんじゃねーよ!』
喉元にナイフを突きつけられ、左右の頬を何度も叩かれた。顔だけじゃなくて...体も殴られたり蹴られたり...最初はとても痛かったけど...段々...感覚が麻痺してきて...意識が朦朧としてきて......
ビリビリ!
布が裂けるような音がした。どうやらシャツが裂かれ、バンツや下着も剥ぎ取られたらしい…
それからすぐ...
『岩崎......』
名前を呼ばれ...首筋に生温かい物を感じた。その生温かい感触は…首筋から徐々に下の方へ移動していく…
止めて!止めて!
そう思っているのに...声も出せなくて...
『ほぉら!口開けな!俺のことも気持ちよくしろよ!』
ナイフを突き付けた男の声が聞こえた。無理矢理、口を開けされられると...口の中に何かが入って来た。その直後...頭を掴まれ、前後に揺すられた。
止めて!嫌だ!気持ち悪い...
僕はえずき、堪らず嘔吐をした。
『うえっ!汚い!何やってるんだ!』
男は怒って...また...僕を殴った。どうにも怒りが収まらないのか...僕を立たせると...今度は壁に頭を何度も打ち付けて…それからまた…殴った。
はぁ...はぁ...はぁ...
叩かれた痛みはほとんど感じなかったけど...どうやら心臓の発作が始まったらしい...苦しくて苦しくて仕方ない...
男二人は動揺しているようだった。
『ヤバい!』
『逃げよう!発見...少しでも遅らせないと...』
男達のそんなやり取りが聞こえて...体が急に軽くなった。どこかに運ばれているようだった。下ろされたところは...冷たくて硬い場所で...どうやら浴槽の中らしい...
『岩崎...ごめんね...でも...お前が悪いんだよ...俺がこんなに愛してるのに...他の男...選ぶから...』
そう聞こえた後、唇に何か触れて...ドアが閉まる音がした。
『冬真!薬持った?』
『うん......』
『上着のポケットだけじゃなく、ズボンのポケットにも入れておくんだぞ!』
『どうして...?』
『上着は脱いだりして、薬が体から離れる可能性があるけど、ズボンならないだろ?お守りだと思って、ズボンにも入れておきな。』
『うん......』
葉祐とのやり取りを思い出して、ズボンのポケットから薬を出し、口に含むと、発作は徐々に治まっていった...
葉祐......すごいね...
お守りのおかげで...発作が治まったよ...
でも......僕はもう...ダメみたい......
せめて最後に...一目だけでも...君に会いたかったな...
今ごろロビーで心配しているんだろうな...
ごめんね......さようなら…
目を閉じようとしたら...左側に『緊急』と書いてあるボタンが目に入った...僕は...持っている全ての力を振り絞って...そのボタンを押した...
「冬真、気持ち良いか?冬真...足湯好きだもんな!」
葉祐は今日も足湯に入れてくれる...
うん......気持ちいいし......
お花の香りが...良い香り......
今日は何のお花のオイル入れたのかな......
やっと自由に動かせるようになった目元で...足湯が好きなことを伝える。葉祐は穢らわしい僕の世話を毎日してくれる...
ごめんなさい......
葉祐は僕に何か話し掛けていたけど...ごめんね。僕...長い文章は...途中から音にしか聞こえないんだ。でもね...葉祐のはね...音じゃなくて...歌に聴こえるんだよ...不思議でしょ?だからね...何も返事をしなかった。そうしたら...
『斎藤が来るよ!』
と、分かるように話してくれた。
ありがとう...
今度はちゃんと返事をした。
しばらくして、本当に斎藤さんが来た。うわぁ...由里子さんも...
でも......一人…知らない人がいる......
誰...?
さっきから僕をじっと見てる......
嫌だ...見ないで...
君のその美しく澄んだ瞳で...僕を見ないで...
君まで穢れてしまう......
由里子さんはその人を抱いて...僕の目の前に座った。何か話してくれていたけど...ごめんなさい...途中から音になってしまって分からなかった...
でも...
その人が『まおちゃん』っていう名前だってことは分かったよ...
由里子さんが話終わったら...まおちゃんは...
『とぉーまぁ』
『にぃにぃ』
と言っていた...
ああ...僕のこと?
それから小さい手で...
『いいこ!いいこ!』
と言って僕に触れた...
ダメだよ...僕なんかに触れちゃ...
僕は穢いんだ...君まで穢れてしまう......
嫌だ!嫌だ!止めて!
触らないで!僕に触らないで!
心の中で叫んだら......
突然...目の前が真っ暗になったんだ...
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