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愛と優しさ #1 side S ~Saito ~

「うん?目が覚めたのかな?」 冬真君が気を失うように眠りに就いてから2時間弱、それまで雑談していた葉祐が、急に立ち上がった。物音も全くせず、変化によく気が付いたものだと感心する。冬真君を守ると豪語したものの、すぐに眠りに落ちた我が娘を起こさぬよう、冬真君を横抱きにした葉祐は、冬真君の異変にいち早く気が付いた。 「どうした?ちょっと落ち着こうか。」 葉祐は冬真君に向かって言った。 「どうかしたの?」 妻が尋ねる。 「うん......何か...怖いと思ったみたい。」 「真生が蹴飛ばしたのかしら?」 「違うと思う。きっと...真生ちゃんを心配したんじゃないかな。」 「本当に色々なことが、よく分かるんだな?感心するよ。」 「愛だよ!愛!愛がなせる業!」 葉祐はえへへと笑った。 冬真君をソファーに座らせると、葉祐は彼の目の前に膝立ちになり、手を握った。俺と妻は葉祐の両隣に立ち、その様子を見守った。 「冬真!俺が分かる?俺の声聞こえる?」 葉祐がそう言うと、冬真君はゆっくりと瞬きをした。 「そっか。良かった!あのね...冬真!大丈夫!真生ちゃんは大丈夫だよ。冬真は穢れてなんかいないんだから。」 葉祐は大きな笑みを浮かべた。 そうか...真生が心配って...そういうことか...... いつだったか、葉祐から聞いたことがある。 冬真君は事件の後、葉祐をそばに近づけようとしない時期があった。自らを穢らわしい存在と思うようになってしまった冬真君。自分のそばにいるだけで、その人を穢してしまうと考えているのではないかと医師は言ったという。 あの事件から3年...葉祐は少しずつ、そうではないことを教え、冬真君との距離を縮めていった。それでも冬真君は、まだまだその考えを完全に払拭出来ていない。 そして今も...自らを傷付けながら…真生を気遣う... 「冬真の考えでいくと、俺も穢らわしいってことになるよ?毎日こんなにもそばにいるんだもん。そうだろう?冬真......俺を穢らわしいと思う?」 冬真君は無反応だった。 「それとも違う?」 今度は瞬きをした。 「そうだろう?真生ちゃん、冬真のことが心配だから、冬真のそばにいるって言ってくれたんだよ。スゲー優しいよね!」 冬真君は瞬き一つ。 「小さい子は鋭いからね。本能で冬真が本当に純粋で優しい人って見抜いたんだと思うよ!」 葉祐は少し間を置き、続けて言う。 「俺はね、どんな時でも、誰に対しても優しい冬真を心の底から美しいと思う!そんな冬真が、心の底から大好きだよ!」 葉祐は冬真君の頭を撫でた。 あっ......照れた...... 冬真君の表情に大きな変化はなかったけど...彼が照れているのが、何となく俺にも分かった。さっきと全然違う。微妙な目の動き。 「あっ、照れた!冬真、今、照れたでしょ?そうやって、ちょっとのことでも照れちゃう、冬真も可愛くて大好きだよ!」 葉祐がいたずらっぽく言うと、冬真君はゆっくりと瞳を閉じた。それはまるで、『もぉっ!』と照れ隠しで怒っているように見えた。 葉祐がまた頭を撫でた。 すると、冬真君はゆっくりと瞳を開き、何度か瞬きを繰り返した。 それを見た葉祐は、また冬真君の頭を撫でた。

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