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可愛い子の旅 #1 side Y & S
〈side Y 〉
真生ちゃんを助けようという気持ちが先に立ち、冬真は今まで見せることのなかった力を発揮した。しかし、その力をその時以外、見せることはなかった。翌日、斎藤は冬真に何やらずっと話し掛けていた。しかも俺を遠ざけて...まるで萱の外状態で、俺はちょっとムッとしたが、『独占欲全開!』と斎藤に笑われそうなので、ここはグッと我慢する。
「なぁ?葉祐?」
「ここら辺でおもちゃを買うとしたら、どこに行けば良い?」
「おもちゃ?どんなの?」
「まぁ、一般的な感じというか...真生が遊ぶ感じ?」
「あぁ、それなら...N駅前のスーパーの2階かなぁ?分かる?」
「そこ、車イス貸出してる?」
「うん。」
「じゃあ、決まり!俺達、ちょっと、そこまで行ってくるよ!」
「俺達...って?」
「俺と冬真君だよ!由里子と真生がいない、今がチャンスなんだよ!」
冬真の体を気遣い、冬真から離れたがらない真生ちゃんと冬真を短時間でも離すべく、母さんが由里子さんと真生ちゃんを自宅に誘って、今、ケーキ作りをしている。
「冬真......大丈夫?」
冬真は瞬きをした。
「本当に本当に大丈夫?」
冬真がリハビリセンター以外で、俺から離れるのは初めてのことだった。
「任せておけよ!可愛い子には旅をさせろって言うだろ?お前はこの時間、カフェの仕事でもしてろよ!なっ!」
「う~ん......」
俺はしぶしぶ斎藤に冬真を預け、二人が乗った車を見送った。
〈side S 〉
N駅前のスーパーの駐車場に到着すると、俺は葉祐が後部座席に積んだ車イスをチラッと見つめた。
『スーパーに行くのなら車イス持って行けよ!』
葉祐はちょっとふて腐れ気味に言った。
『何で?貸出してるんだろ?』
『お前、駐車場から貸出してるカウンターまで、冬真をどうやって連れて行くの?いくら冬真が軽いとは言え、抱いて行くつもり?お前が大変になるよ?』
「あれさぁ~俺のことを気遣ったと見せかけて、ヤキモチ全開だぜ?本当に葉祐はわかりやすい上に、相変わらず独占欲全開だなぁ…大変だね〜冬真君も。」
冬真君は無反応だった。冬真君にしてみたら、葉祐が全てだもんな...そんなこと考えたことないか......
今度は冬真君に葉祐が書いた紙切れを見せる。これは、冬真君と外出するに当たって、葉祐が書いた注意書だ。
憲法か!
思わずそうツッコミたくなる量だ。まぁ...そう言ったところで、冬真君は無反応だろう...
「冬真君!見て!これさぁ、葉祐が書いた注意書。スゲー量だよね?冬真君、本当に愛されてるね~」
俺がそう言うと、冬真君は心なしか頬を朱に染めて、瞬きを一つした。
「はいはい。ご馳走様!よし!早く買い物終わらせてさ、特訓しようぜ!」
冬真君はまた一つ瞬きをした。
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