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可愛い子の旅 #2 side Y
斎藤と冬真は昼を過ぎても帰らず、俺は右往左往するばかりだった。二人が出掛けてから5時間あまり、俺は何も手に着かない状態だった。
そして...もう一人、何も手に着かない人間がいる...
「にぃにぃは?」
真生ちゃんが真っ直ぐな瞳を向け、俺に尋ねる。
「真生ちゃんのパパとお出かけしたんだよ...」
「パパずるーい!」
真生ちゃんは、プクゥと頬を膨らませた。子供らしい可愛らしい仕草に思わず笑みがこぼれた。
連絡入れてみようかな......
何度もそう思うのに、『独占欲』『過保護』という言葉を吐く、斎藤の顔がちらちら頭をよぎる。
『くそっ!斎藤はさておき、冬真の潜在能力を信じよう。昨日だって信じられない様な力を見せてくれたじゃないか...』
何度も自分に言い聞かせるものの、
昼食は食べられたんだろうか?
斎藤は、きちんと細かく切ってやったんだろうか?
飲み込めなくて、苦しくて吐き出してはいないだろうか?
トイレは行けたのかなぁ...
たくさんの思いが交錯する。
「にぃにぃ......」
真生ちゃんがぽつりと呟いて、外を見つめた。真生ちゃんも俺同様、冬真のこと心配してるんだ。小さな小さな同志の存在が、今はありがたかった。
「真生ちゃん...俺と一緒に冬真お兄ちゃん、探しに行こうか?」
「にぃにぃさがす!」
「よし!」
真生ちゃんを抱き上げて、玄関へ向かおうとした矢先、車が一台入ってくるのが見えた。
斎藤の車だ!
「パパ!」
俺と真生ちゃんは慌てて玄関に向かい、扉を開けた。
「斎藤!」
「話は後!冬真君をトイレに連れていってやって!家出てから、ずっと行ってないんだ!何度促しても全然行ってくれなくて...」
俺は慌てて、真生ちゃんを斎藤に預け、冬真を抱き上げた。冬真はやはり、我慢していたようだった。
「どうしてトイレ行かなかったの?トイレは我慢しちゃダメって言ってるだろ?」
そう言ったところで、もちろん返事はない。用を足し終えた冬真に下着を履かせると、手洗いを済ませ、再び冬真を横抱きにすると、冬真は俺の肩に頬を寄せた。
「どうした?」
もちろん返事はなかった。そして、そのままゆっくりと瞳を閉じ、すぅーっと鼻から息を吸った。まるで、俺の匂いを確認するかのように...
俺の腕の中で...俺の匂いをかいで...
俺を感じて...心底安心したんだ......
よく考えれば、トイレは行きづらかっただろう。いくら友達とはいえ、初めて一緒に出掛け、下半身を晒して、なおかつ、世話までしてもらうんだから...一緒に温泉に入るのとはワケが違う...
デリカシー無さすぎた...ごめん...
一人で出来るようになるまでは、一緒に行って、別の場所で待ってやるべきだったんだよな...
本当にごめん...
でも、そうまでして斎藤と出掛けた理由は何なんだろう?
考えれば考えるほど、よく分からなくなって、頭の中がますます不明瞭になっていった。
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