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可愛い子の旅 #3 side S

冬真君をソファーに座らせると、葉祐は矢継ぎ早に質問した。 「昼メシは食ったのか?」 「食った。」 「何食った?」 「ラーメン。」 「ラーメン?ちゃんと食べられたのか?」 「ああ。ほら!」 俺は葉祐の前にあるものを差し出す。 「何だ?これ...」 「赤ちゃん用のヌードルカッターだよ。真生の離乳食を作るときに使ってたの思い出してさ。これなら軽いし、小さいから外出の時にも持って行けるだろ?ちゃんとそれで切ってから食べさせたよ!注意書通りに。」 「そうか.......」 葉祐は安心したようにホッと息を吐いた。それからすぐ、冬真君に話し掛ける。 「ラーメン...美味しかった?」 冬真君は瞬きをした。 「『ラーメンが食べたい』って言ったのは冬真君だぜ!」 「えっ......」 「なぁ?冬真君?」 冬真君は瞬きをする。 「そこのラーメンも美味しいけど、葉祐が作ってくれた方のが旨いってさ。お前が1度だけ作ってくれたことがあるって。塩ラーメン。」  「もしかして...家出騒ぎの時の?」 「さぁ...それは知らないけど...東京でだそうだ。」 「何で?何で?お前が知ってるんだ?二人でどこへ行ったんだ?」 葉祐が驚愕の表情で俺を見つめた。 仕方ない...... そろそろネタばらすかぁ…… 俺はスーパーの紙袋の中から、おもちゃを一つ取り出し、冬真君の膝の上に置いた。それは幼児向けの知育玩具で、タブレットを模した形状に、ひらがなが50音順に並べられていて、ひらがなのボタンに触れると、そのかなの音が出ると言う代物だった。 それまで冬真君の足元でじゃれついて真生も、それに食いついて... 「まおちゃんも!まおちゃんも!」 「真生にも買ってきたよ。」 「パパ!」 箱から出して、スイッチを入れてやると、真生は早速、意味不明な言葉の羅列を始めた。 俺は冬真君と真生から離れたところに葉祐を連れて行った。 「お前は知らないだろうけど......今朝、冬真君...お前の背中を見て、少しだけ口元を動かしたんだ。」 「本当に?」 「ああ。その姿を見てさ、俺...冬真君はお前と話がしたいんじゃないかなって思ってさ。聞いてみたんだ。『冬真君は葉祐と話がしたいと思ってるんじゃないの?』って。」 「そうしたら?」 「瞬きをしたよ。」 「冬真......」 「ちょうど先週、真生にそういうおもちゃを買ってやろうかって、由里子と話していたところでさ。これだったら、冬真君もイエスだけじゃない意思表示が出来るだろ?でも...どうしてもボタンは押さなくちゃならない。だから、冬真君に『ボタンを押す練習頑張れる?』って聞いたんだよ。そうしたら、瞬きをしたの。」 「じゃあ...朝、お前が冬真に話し掛けていたのって...」 「ああ。そのこと。それ買ってすぐ練習始めてさ。冬真君スゲー頑張ったんだぜ!最初は全然だったけど、今は1回につき4文字ぐらいは押せる。少し休めば、また4~5文字ぐらい押せるかな...それ以上は、今のところちょっと難しい。もちろん、単語だけで文章は無理。吃音や濁音、半濁音も無理。だから、音を聞いて、こちら側が冬真君が言いたいことを想像して、尋ねることをしなくちゃならない。でも、俺もそうやってラーメンの話を聞いたんだ。だから、常に冬真君のそばにいるお前なら、難しくはないさ。さっ、説明はこれぐらいにして......冬真君がお前に伝えたいことがあるんだってさ。」 葉祐の背中を押し、冬真君の前に立たせた。 冬真君はゆっくりと一つ一つボタンを押し、少し荒くなった息を整え、また一つ一つボタンを押していく。機械が発する音だけど...冬真君の心が...事件後、初めて葉祐に伝えられた。 『よ』『う』『す』『け』 『あ』『り』『か』『と』 「冬真......」 葉祐はこちらに背を向けているから、表情は伺えない。でも...きっと泣いているに違いない...... 俺は真生を抱き上げた。 「なぁ。真生?パパとお散歩行く?」 「なんで?」 「パパと真生...お邪魔虫だからさっ。」 「まおちゃんとパパ、むしさん。」 「あはははは......今だけね!」 そして......俺達は静かにリビングを出て行った......

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