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悩める葉祐 #2 side Y

全くもって予想外の展開だ。 いや..... よ~く考えれば...あながち予想出来ないワケではなかったはずだ。 全く... 俺は...いつもいつも...ツメが甘いんだよな...... 新しいリハビリと院内学級ボランティアが始まってひと月余り。やはり冬真の体力では、かなりハードらしく、迎えに行った車の中で必ず眠ってしまっていた。それでも精神的には充実しているようで、顔つきも穏やかになり、最近では、微妙に心情が表情に出るようになった。食事も成人男性の摂取量にはほど遠いものの、以前よりも食べる様になり、まだまだ溢してばかりだけど、自分でスプーン、フォークを駆使して、徐々に食事が出来るようになっていた。 そして... 冬真は少しだけ饒舌になった。もちろん、タブレットでだけど。 特にボランティアの話は、尽きることがないらしく、たくさんのことを教えてくれる。 仕事のこと。 子供達のこと。 ボランティアの時だけ貸してもらえる電動車イスのこと。 冬真は生きることに前向きになった。確実に前に進んでいて、確実に『生』の香りをまとっている。 良かった... あの決断は間違っていなかった... だけど... ある日突然、冬真の様子がおかしくなった... その日はボランティアの日で、いつも通り迎えに行くと、普段なら眠気と戦いながらも、タブレットを押して話そうとするのにも関わらず、その日は何も語ろうとせず、無言のまま車に乗り込み、そのまま眠りに就いた。 疲れたんだな...... その時はそう思っていた。 そして、次のボランティアの日... あれだけ楽しみにしていたボランティアなのに、冬真は行くのを渋った。 何かあったのだろうか...... 気になって、療法士の先生にそれとなく様子を探ってもらったが、結局何も解らなかった。 そして...今日も... 冬真はボランティアに行くのを渋る。 「あくまでもボランティアなんだ。体調が悪いなら休んでも良いと、俺は思うよ。」 俺の言葉に冬真は、 『こ』『め』『ん』 『た』『い』『し』『よ』『ふ』 『い』『く』 とタブレットを押した。 ごめん、大丈夫、行く。 何か嫌なことがあったのか? いつも通り、病院のロータリーで療法士の先生に冬真を託すと、普段の冬真は、車が見えなくなるまで、小さく本当に小さく手を振ってくれる。それなのに今日は、手も振らず、ただただ俺の車が消えるのをずっと見つめていた... 冬真を病院に送り届けると、開店が迫ったカフェの仕事をするのが常だったが、別れ際の冬真の姿が目に焼き付いて、何も手に着かず、このままではいけないと、自分を戒めるように家事をこなした。 約束の時間に病院へ迎えに行くと、冬真は岩代さんと一緒にいた。 『何故?』 そう思ったが、岩代さんは冬真が通院する大学病院の研究室に在籍しているのだから、まぁ不自然ではない。ただ、端から見て、二人は揉めている様に見えた。 俺はクラクションを鳴らし、車から降りると、岩代さんは、二人の間を行き交っていた紙袋を、慌てて引ったくる様に冬真から取り上げ、乱暴にそれを後ろ手に隠した。

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