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悩めるさやか #1 side S ~Sayaka Iwashiro ~

何...? 何なの...? いきなり紙袋を突き付け、この世間知らずの同級生は、不自由な体を一生懸命駆使して、この場から立ち去ろうとしている。 バカ!バカ!私をナメるな! どれだけの付き合いだと思ってるんだよ! アンタがこういうワケの解らない行動する時って、いつもスゲー困っている時でしょ?しかも、大好きな葉祐君に相談出来ないこと。 「こらっ!岩崎!お前、何か困っているんだろ?」 岩崎は動きを止める。 「しかも、海野にも相談出来ないこと。何だ?何があった?」 表情は乏しいものの、それでも、心情がだいぶ表情に反映されるようになった。今も顔に書いてある... 『どうして?』って。 「ほらっ!図星だろ?どうした?何があった?この紙袋...何?見てもいいか?」 岩崎は諦めるように瞬きをした。 紙袋の中をチラリと覗けば、中には手紙が入っていた。ざっと見積もって20通弱。しかもご丁寧にそのほとんどが、可愛いピンク色の封筒... 「もしかして......これ全部ラブレター?これ全部、岩崎宛?」 岩崎はもうひとつ瞬きをした。 岩崎の性格じゃ...いちいち丁寧に断りの返事してるんだろうな。相手を傷付けないように、慎重に言葉を選んでさ。 「返事......」 そこまで言って、口を閉ざす。 返事...出来るワケない。 鉛筆も持てないし...声も出せないんだもんな... あっ!メール!メールは? メールが出来たら...こんな奇怪な行動はしないよな。家でメール出来たら、海野に言えてるはずだもん。 ってことは... 岩崎はこの手紙の返事を書かなくてはと思っているけど、出来なくて困っていて...それを更に海野に言えなくて困っている二重苦という状態に陥っているのか...... でも、何で海野に言えないんだ?困っているって。海野に相談すればオールクリアじゃない! 「まぁ...岩崎が困っていることは大体想像がついた!でも、何で海野に相談しないの?」 『よ』『う』『す』『け』 『こ』『れ』『い』『や』 『く』『る』『し』 『か』『な』『し』 『ほ』『く』『い』『や』 葉祐、これ嫌? 苦しい? 悲しい? 僕、嫌? 「海野がこれを見ると、嫌な思いをして、苦しんだり、悲しんだりするってこと?それが、岩崎は嫌だってこと?」 岩崎は瞬きをする。 「私にはよく解らないけど...確かに、自分のパートナーがこれだけの数のラブレター貰ってたら、まぁ、いい気はしないだろうけどさ...でも、内緒にされるのも悲しいんじゃないか?」 私は岩崎の膝の上に紙袋を戻した。 「ましてや、大好きで可愛くて仕方無いお前がさ、自分に相談できずに、悩み、苦しんでるって海野が知ってみろ?アイツ相当ヘコむんじゃないか?」 岩崎は再び、私に紙袋を渡し、タブレットを押す。 『よ』『う』『す』『け』 『と』『つ』『ち』『も』 『か』『な』『し』 『い』『や』 葉祐 どっちも悲しい イヤ。 なるほどね... そっか...どっちみち、海野が悲しい思いをすると思ってるんだ。 う~ん...... でも......やっぱり...これはお前が持ってないと。 再度、紙袋を岩崎の膝の上に乗せた。 その時、車のクラクションが聞こえ、そちらを見ると、海野が車から出てきた。私は咄嗟に紙袋を岩崎から奪い、それを自分の背中に隠した。ほとんど無意識に... あー私のバカ!バカ! こんなことしたら、余計に怪しまれるだけじゃない! 挨拶と少しの言葉を交わし、私の行動を不審に思ったはずの海野は、何も聞かず、何も言わなかった。すっかり元気をなくした岩崎を助手席に乗せると、海野は『仕方無い』とばかりに小さく溜め息をついた。そして、運転席に回ると私を見た。きっと、別れの挨拶をしようとしたのだろう。だが、私はそれを無言で征した。少し驚いた表情を見せた海野に、私は、 『あ』『と』『で』 と声は出さずに、唇だけを動かし、右手で受話器を持つ仕草をした。 助手席に視線を戻すと、岩崎はずっと俯いていた。余りにも不憫なその姿に、私は窓ガラスを叩き、ゆっくりとこちらを見た岩崎に、私は『任せて』とばかりに大きく頷いた。岩崎は少しだけ安堵したような表情を見せた。 後で連絡する。 そう伝えたけど...妙案なんてない。何の計画もない。 だけど...... お互いを大切に思いやるこの二人を、どうにかして助けたい!いや...助けなければ... そう思いながら、彼らの車を見送った。

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