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消えた岩崎 #1 side S ~Sayaka Iwashiro ~
私が次に岩崎の元へ訪問できたのは、海野と言い争いをした日から数えて6日目のことだった。海野に威勢よく啖呵を切ったものの、仕事に追われ、今日、何とか数十分ほどの時間を作り、岩崎の通うリハビリセンターまで足を運んだ。
理由は一つ!
岩崎が海野から不当な扱いを受けているか否か、確認するため。
「こんにちは。」
リハビリセンターの扉を開くと、岩崎の担当している療法士、佐々木氏の笑顔にぶつかる。人の良さそうな笑顔が印象的な大男だ。
「ああ!研究所の!えっ...とぉ...」
「岩代です。すみません、お忙しいところ。あの...岩崎君は?」
「今日はもう帰りましたよ。」
「帰った?」
「ええ。何でも用事があるらしくて...」
「岩崎君が言ったんですか?」
「はい。二日前でしたかね~急に言い出したので、ちょっと心配になったので、ご家族の方に確認したところ、了承を得ましたので...」
「一人で帰宅したんですか?」
「いいえ。お迎えの方がいらっしゃいましたよ。」
「海野さん...ですか?」
「いいえ...海野さんではありません。別の方です。私も初めてお見掛けした方でした。でも...今日はあの方のお宅に泊まるか、二人でどこか宿泊するんじゃないですかね~直接、そうは言ってなかったけど...」
「どうして...そう思うのですか?」
「今日はいつもよりも大きなバッグで来たし、それに岩崎さん、入浴してから帰ったんです。」
「入浴?」
「ええ。岩崎さん、いつもどんなにリハビリで汗だくになっても、海野さんに入れてもらうからって、センターの風呂に入ったことないんです。でも、今日はお風呂に入れてくれる人がいないからって...私がケアしました。海野さんの都合が悪いなら、海野さんのご両親のどちらかが、いつものようにお迎えにいらっしゃるでしょうし...」
「どういった方がいらしたんですか?」
「そうですね...年の頃は50代の前半ぐらいの感じでしょうか...中肉中背の男性です。」
「中肉中背の男性......特長は?何か印象に残ったことはありませんでしたか?」
「う~ん......そう言われましても...」
「何でもいいんです。何かありませんか?」
「そうですね...その男性、振る舞いが紳士的と言いますか...姿勢が良くて、言葉遣いがとても丁寧でした。あとは...岩崎さんのこと『冬真君』って呼んでました。」
50代の紳士的な男...誰だろう?
思い当たる節が全くない...
迎えに来たってことは...以前、遭遇したような...危険性をはらんだものではないのかもしれない...
しかし...
岩崎があんな目に遭ってしまったのは...私のせいでもある......
私のせいで...岩崎を不幸のドン底まで落としてしまったんだ...
同窓会......
岩崎は行くのを渋っていた。
私が無理に誘わなければ...
ロビーまできちんと送って行けば...
岩崎はあんな目に遭わなくて済んだんだ。
今、この時も何かに巻き込まれてしまっていたら...そう考えると、居ても立ってもいられない。
どこへ行ったんだよ...岩崎......
お前がまた...何か事件に巻き込まれていて...
また...苦しんだり...悲しんだりしたら...
私は...そいつを赦さない!今度こそ絶対...私の手でぶっ潰す!
どうか...
どうか岩崎が無事に戻って来ます様に...
そう祈らずにはいられなかった。
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