136 / 258

不穏な手紙 #1 side Y

「冬真?大丈夫?寒くないか?」 いくつかの家事を終え、リビングに戻ると、いつものように窓際で、空を見ているはずの冬真からは何の返答もなかった。声が思うように出せない冬真は、『大丈夫』の代わりに右手を軽く上げる。心配になって覗いてみると、規則的な呼吸音が聴こえてきた。冬真はいつの間にか眠りに落ちていた。 「あれあれ...眠っちゃったのか...疲れているのかな?このままだと風邪引いちゃうし...寝室まで連れて行くか。」 冬真を横抱きにしようとして、ふと、その場所の暖かさに気が付いた。 「随分暖かいなぁ...ここ。これじゃ、気持ち良くて寝ちゃうよなぁ...」 この場所から寝室に移してしまうことが、何となく惜しくなり、ブランケットを冬真に掛けてやると、俺もその隣で横になり、冬真を見つめた。穏やかに眠るその様子に、俺は安堵する。 『岩崎さん、最近、雰囲気変わりましたよね~何て言ったら良いのかな...元々イケメンはイケメンなんですけど...更に磨きがかかったと言うか...う~ん...上手く説明出来ないなぁ......』 つい先日、冬真の担当療法士、佐々木さんはそう言った。 佐々木さん...あなたの言いたいこと...俺、代弁出来ると思います。 冬真...ますます綺麗になったんですよね。 そして... 元々醸し出していた彼の色気が、最近では湯水の如く溢れ出して...こぼれ落ちる様なんですよね。 ここ最近の冬真の変化は、非常に目まぐるしい。 時折、見せてくれる様になった笑顔。 音は多少違うものの、事件後初めて声にして呼んだ俺の名前。 不覚にも欲情した俺に...その体を差し出そうとしたこと... そして......キス...... 冬真の中で何があったんだろう...... あの時...枕元に置いた返事の手紙が功を奏したのだろうか? それとも...... チェストの上に置かれた、一通の封筒に視線を送る。 俺が返事を冬真の枕元に置いた翌日、冬真宛のその手紙は突然届いた。差出人は『山内彰』という人で、住所と思われる土地名は、東京のものが書かれていた。冬真には全く心当たりがないという。住所から連絡先を探したが、分からなかった。心当たりがなくても中の書面を見れば、何か思い出すかもしれないと、冬真はその封筒を開封した。すると、中からはケースに入ったSDカードが一枚出てきただけで、他には何も入っていなかった。冬真はすっかり怯え、俺の腕の中から離れようとせず、俺は中を確認したい気持ちに駈られたが、ウィルス等が添付されている可能性を考え、中に何があるのか確認することはしなかった。俺にとって、ウィルス以上に怖いことは、最近、ますます美しさを増した冬真に、誰が好意を寄せることだった。その好意が以前の様に、一方的で身勝手なものだとしたら... せっかく...せっかくここまで元気になったのに... やっと穏やかな時間が過ごせる様になったのに... くそっ! 俺の中にじわじわと怒りに近い感情が生まれた。きっと無意識に体を硬直させたのだろう。冬真はそれを察したのか、更にぎゅっと抱きついてきた。 「大丈夫だよ、冬真。冬真は何も心配しなくていいんだ。この手紙は俺が預かるから...いいよね?」 俺の言葉に、冬真は頷いた。そして、俺はその手紙をリビングのチェストにしまった。

ともだちにシェアしよう!