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不穏なメール #1 side Y

ザバ~ン...... 打ち寄せる波の音と ちゃぽん...... 動く度に揺れる湯の音。 目の前に広がるのは、大海原と露天風呂の浴槽に両腕を乗せ、横座りでスラリとした足を投げ出し、それを見ている冬真の白く艶のある背中... 絶景かな!絶景かな! スイスに滞在中の山内さんから不思議なメールをもらったのは、二週間前のことだ。その内容は、 『どこでも良いので、三日間の時間を作ってもらいたい。出来れば、平日だとありがたい。』 というもので、何度となく理由を尋ねても、上手くかわされてしまい、全く埒が明かないので、仕方なく何とか平日に三日間都合のつく日を知らせると、 『了解』 という言葉を最後にメールは来なくなった。 すると、しばらくして今度は見知らぬ旅館の封筒が届いた。宛名は海野葉祐。開封すると、中には旅館のパンフレット、それと達筆な文字で書かれた手紙が同封されていた。 『○月□日より二泊三日のご予約を山内氏より承っています。心よりお待ち申しております。どうぞ気兼ねなくいらっしゃいますように...』 どうやら、この手紙を書いたのは、この旅館の女将さんらしい。気持ちだけで充分という旨のメールを山内さんに送ると、 『懇意にしている温泉旅館で、料理も美味しく、温泉の効能も冬真君の体に適しているはず。お詫びのつもりなので、遠慮なく受け取ってもらえるとありがたい。』 という返信が来た。土屋さんに相談すると、 『せめてもの詫びのつもりなのだろうから、遠慮なく行って、彼の心を軽くしてあげなさい。同時に冬真君の心も軽くなるかもしれない。』 と言われた。確かにそれは一理あるだろうと、俺は山内さんの申し出をありがたく受けることにし、お礼のメールを再度送信した。 こうして...冬真と二人、初めての温泉旅行に出掛けることになった。

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