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奇蹟の夜 #1 side Y
不安定な自分の気持ちをさらけ出す様に嗚咽をする俺に、冬真は微笑み、キスをした。ディープでも、フレンチでもないそのキスは、温かく慈愛に満ちたものだった。冬真の優しさに触れた俺は、体の緊張が解れ、心の中にある全てをを一気に吐き出した...
「冬真...お前は俺の全てなんだ!お前の幸せが俺の幸せ...お前がいない人生なんて考えられないよ。お前をこれ以上傷付けるもの...俺は絶対に赦さない!それがたとえ自分自身であっても...だから...」
冬真は震える手で、俺の涙を優しく拭ってくれる。
「冬真が徐々に元気になっていって...可愛い仕草をしたり、綺麗な笑顔を見せたりするようになって...『冬真を抱きたい』って何度も考えた。でも...そんなことを考える俺は本当に最低で...そんなこと分かっているのに、お前を抱きたいっていう気持ちは膨らむ一方で...でも...そんな俺の身勝手な気持ちをお前にぶつけてしまったら、俺はあいつらと何ら変わらなくなってしまう。俺は怖いんだ…冬真...お前があいつらと変わらない俺に絶望して、自らを守るために心を壊して、全てを閉ざしてしまうんじゃないかって。お前に会えなくなることが...お前を失うことが...本当に怖いんだ...何よりも...」
俺は再度、床にひれ伏した。涙が溢れ出して止まらなかった。頭にふわりと温かい手が触れた。
「よぅすぇ...なかなぃえ...」
葉祐...泣かないで...
俺の頭を優しく撫でる冬真の言葉に、俺は顔を上げる。
「ぼ...く...よぅすぇ...ぁいしぇう...だかぁ...だぃじょ...ぶ」
僕...葉祐...愛してる...だから...大丈夫...
「ぼ...く...ぁいさぇ...て...ぅ...
とぇも...たくさ...ぁいさぇてう...」
僕...愛されてる...
とても...たくさん...愛されてる...
「よぅすぇ...ぼく...ぁいしえう...ぼく...ふぇたぃ...ぁたぃまぇ...」
葉祐...僕を...愛してる...
僕に...触れたい...当たり前...
「いっしょ...ちがぅ...ぼくたち...ふたぃ...あぃあぅ...だかぁ...ちがぅ...」
一緒違う...僕達二人...愛がある...だから...違う...
「でも...」
「よぅすぇ...ぼくのこと...くぅしまないぇ...ぼく...きたなくなぃ...うつぅかなくぇいい...よぅすぇいった...だかぁ...ぼく...だぃじょ...ぶ...」
葉祐...僕のことで苦しまないで...
僕は穢くない、俯かなくていいって葉祐が言ってくれた...だから...大丈夫...
そこまで話すと冬真は少し苦しそうに早い呼吸を繰り返した。俺は慌てて横に座り、背中を撫でた。呼吸は徐々に落ち着いていった。
「大丈夫?」
「うん...」
「本当に良いのか?」
そう尋ねると、冬真は頷いた。
「ぼく...よぅすぇ...だぃえつ...だかぁ...くぅしぅえほしくなぃ...」
僕...葉祐...大切...
だから...苦しんで欲しくない...
冬真は俺の手を引いて、ベッドに座らせた。目の前に立った冬真の下着をするりと下ろした。露になった綺麗な色の冬真自身にキスをし、冬真に抱きついた。
「ありがとう......冬真......」
その言葉を合図に...俺達の三年ぶりの夜が始まった...
優しくしたい...優しくしなくちゃ...
そう思っているのに...俺はすっかり余裕をなくし、本能のままに冬真を抱いてしまう...執拗な愛撫と化した俺の本能を、冬真はありのままに受け入れ、囁く様に啼き、そして、受け入れた俺の本能を悦びに変え、それを俺の口の中、自身の腹の上にと吐き出した。俺も冬真の体に欲望と本能を注ぎこんだ。何度も何度も。時には注ぎ込んだ直後、離れ難い冬真の中で、再び自分の本能を増大させてしまう俺を見て、
「いいよ...」
冬真はそう言って微笑んでくれる。俺はその笑顔を見て、子供の様に喜び、そして、冬真を本能のまま抱いてしまい、欲望と本能を冬真の中に満たした。三年ぶりの夜を終えたとき、俺は冬真の薄い胸の中で、ずっと泣き続けた。冬真は俺の背中を優しくトントンとリズムよく叩いてくれる。
「長い間...我慢させて...ごめんね...」
幻聴なんだろうか...はたまた奇蹟なんだろうか。久々に聞いた冬真本来の話し方と、屈託のない笑顔。俺はそのことにどこか安堵した。そして、背中を叩く心地よいリズムも相まって、不覚にもそのまま眠りに落ちてしまった。
頬に何か当たる感触で、意識が浮上した。目を覚ますと頬づえをついた冬真が、俺の頬を優しく撫でていた。
「冬真?」
「ぉはよ...」
「おはよう!...体...大丈夫?あっ...後処理してない...ごめん...冬真...」
「だぃじょぅぶ...ぼく...した...」
「えっ?いつ?」
「よぅすけ...ねてかぁ...」
えっ?俺が寝てから?
確かに俺の腹にあったはずの冬真の悦びは、跡形もなく消えていた。ならば、冬真の中から溢れるほどだった俺の欲望も、冬真は一人綺麗にしてくれたのだろう...何だか罪悪感が去来した。
「ごめん...何から何まで。しかも...優しくするつもりが全く余裕もなくて...」
「ぅふふふ...ねぇ…よぅすけ...?」
「うん?」
「ぼく...しぁわせ...」
「うん...俺も...」
堪らずに冬真を腕の中に閉じ込めた。遠くで波の音が聞こえた。
「よぅすけ...ぼく...ぅみ...いきたぃ...」
「そうだな!早く遊びに行こうか!その前にメシだな!だけど...もう少しだけこのままでいさせて...この奇蹟をもう少し噛み締めたいんだ...」
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