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離ればなれ #1 side Y
「あ~見事なまでに真っ赤だね。喉、すごく痛いでしょ?」
「はい......」
「熱は?38度7分かぁ......まっ、念のため2、3日入院しておこうか!葉祐君。」
「えっ?」
天城医師の言葉に、俺は絶句した。
「ただの風邪だよ。でもね、疲れから来てるかもしれない。君はもう何年も頑張り続けてるし...まぁ、入院と言うよりも、少しメンテナンスするってぐらいに考えて。」
「でも......冬真が...」
「ほらほら!そこだよ!自宅で安静にしてろって言っても、無理だろう?どうしても冬真が最優先になってしまう。冬真も君のことが心配で、そばを離れないだろうし...おちおち寝てもいられないだろ?それに...冬真にうつるかもしれないんだよ。体が弱い冬真にうつった方が、今よりも余計に面倒なことになるんだよ。分かるだろ?そっちの方が、確実に長引くんだ。」
「......」
「現に、喉の痛みで食事もロクに摂れないだろう?ここらで一休みしてもいいんじゃないか?ご両親には、私から連絡しておくよ!良いね?」
天城医師に後押しされ、俺は仕方なく、運び込まれた診療所にそのまま入院することになった。
目が覚めると、見慣れない天井が見えた。
確か病室に通されて...そのまま寝ちゃったんだ…
「おう!気が付いたか?」
親父が立っていた。
「あ...何か...ごめん...迷惑掛けて...」
「いや~大したことじゃねぇよ!それより大丈夫か?」
「色々なところが痛くて、ダルいけど...朝よりだいぶ良いよ...今朝はそのまま倒れちゃって、冬真の支度もしてやれなかったし...冬真は?大丈夫?」
「う~ん...」
「動揺...してるよね...」
「まぁね...でも、大丈夫さ。今日から俺と母さんで、お前達んち泊まるしさ。不安にさせない様に努力するよ。」
「店は?しばらく閉店の貼り紙した?」
「それがさ~スゲーんだよ。母さん、一人で切り盛りしてるんぜ!」
「えっ?でも...コーヒー...」
「コーヒーがダメなら紅茶だ!って言っちゃってさ。今日から『紅茶の日』と銘打って、紅茶を注文すると、クッキーをサービスで付けて出してるの。どうしてもコーヒーっていう客にはさ、『豆も水も一緒なんですけど...まだまだ勉強中の素人が淹れますから...』って言って、100円引きで出してるよ。でも、クッキーに釣られて、紅茶頼む人が多いみたいだな。とにかく大盛況でさ。いや~うちの母さん、商才あったんだなぁ~本当にスゲー!」
「ピンチを逆転の発想で乗り切る...母さんらしいや...でも...申し訳ないことしたな...」
「そんなことねぇよ!いつどこで買ったんだかさ、何かフリフリのいっぱい付いたエプロンつけちゃってさ。ノリノリなんだぜ!フリルは女のロマンなんだと。だからさ、お前は何も気にせずゆっくり休め。先生がおっしゃる通り、お前は今日まで頑張って来た。そして、これからも頑張らなくちゃなんだ...」
「分かったよ。冬真のこと...よろしくお願いします。」
「パジャマとか必要な物、足元に置いてあるからさ。店が終わったら、母さん、顔出すって。その時に洗濯物出してくれってさ。さぁて!帰るかな~今晩は俺が晩飯作ってやるって、冬真と約束してるの。早く帰って、準備しなくちゃ!」
「焼きそば?冬真、父さんの焼きそば大好物だもんね。」
「まぁね!じゃあな。」
父さんの退室をベッドから見送り、そのまま反対側に寝返りをうった。窓の外の景色と、ここに運ばれるまでの冬真の不安気な表情が重なった。
「ごめん...冬真...」
それだけ呟くと、諸々の痛みと体のダルさには勝てず、もう一度目を閉じ、眠りに就いた。
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