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親愛 #6 side K ~ Kosuke Y 's father ~

「私...少し前から考えていたんだけど...冬真君をうちの養子に迎えることは出来ないかしら?」 「えっ?」 珍しく神妙な面持ちの母さんから、とんでもない爆弾発言が飛び出した。 「私達、冬真君と本当の親子になった方が良いと思うの。冬真君に八つ当たりでも何でもいいから、自分の中に押し込んだもの、ぶつけて欲しいの。『遠慮せずにぶつけてみなさい!親なんだから、何でも受け止めるわよ!』って言ってあげたい。ジレンマに苦しむ冬真君...見てられないわ。どうにかしてあげたい。普通なら入院なんてことにならないのに、葉祐が入院しなくてはならなくなったこと、あの子はその理由を分かってる。体の自由があまり利かない自分に看病なんて出来るはずもないって。でも、愛する人が病に倒れたのよ?誰だってそばにいて看病したいわ。でも...出来ないから、入院って形で遠ざけられてしまって...本当に情けなくて...傷ついたでしょうね。そういう切なくて、やりきれない気持ち...誰にもぶつけることも出来なくて、仕方がないから心の奥底にしまい込んで…それだけでも苦しいのに、私達を気遣って...心配させないように無理に笑ったり、食欲のあるフリをしたり...」 「母さんの気持ち、分かるけどさ...冬真はあの岩崎家の血筋の人間だよ。まぁ、低いと思うけど、跡取りになる可能性もある。それと…里中家。里中家はもう跡継ぎがいないんだ。両家がすんなり首を縦に振るとは思えないよ。それに...何よりも葉祐が納得しないだろう。葉祐は自分の手で冬真を幸せにしたいんだ。冬真もそれを望んでる。二人の気持ちは解らないけど、いつか結婚したいという意思があるなら、兄弟になってしまったら、後々面倒なんじゃないか?」 「それも...そうね。でも...このままじゃ...」 「なぁ?この子の前で自分達のこと、『お父さん』『お母さん』って呼んでみるのはどうだろう?」 「例えば?」 「『お父さんはこう思うぞ』とか『お母さんに聞いてごらん』とかさ。俺達、この子の前では『おじさん』とか『俺』とか『おばさん』とか『私』って言ってるだろう?自分達のこと。それを敢えて、『お父さん』『お母さん』にするんだよ。俺達は冬真のこと、葉祐と同じ様に可愛い息子だと思ってるよって伝えている。だけど、自分達で『おじさん』『おばさん』って言ってるんじゃ、やっぱり距離を感じて、冬真は遠慮してしまうよ。だから『お父さん』『お母さん』に変えるんだ。普段から聞き慣れていれば、冬真もいつか、そう呼んでくれるかもしれないだろ?」 「冬真君よ…そう簡単にいくかしら?」 「まぁね。でも、しないよりはいいんじゃねぇか?これって俺達にしか出来ないことだし、それにさ、葉祐だって子供の頃、俺達のこと間違えて『先生』って呼んだことが何度もあっただろ?あんな感じで、間違いでもいいから、一回呼んでしまえば、意外にハードル低くなるんじゃないか?」 「本当にお父さんは単純ね。でも...今回はそれに救われたわ。」 「とにかく、『案ずるより産むが易し』だよ。親の愛情をはじめ、ほとんどの愛情を知らず、受けられずに、葉祐が子供の頃に与えたほんの僅かの愛情だけを頼りに生きてきたんだ。しかも擦れずに、真っ直ぐにさ。ほとんど奇蹟だろ?この子を楽にしてやって、悲しませず、幸せにしてやれること、試行錯誤でさ、何でもやってみようよ。どんなに単純でアホらしいことだとしてもさ。」 「ええ。そうね...」 「母さんはまず、君付けを辞めて、冬真を呼び捨てするんだよ?それから、明日の朝は、遊行症の事実を知って、更に悲しむだろうから注意深く見てやらないと...」 「そうね......その悲しみを少しだけでも、取り除いてあげましょう!私達で出来る何かで!だけど......本当に大きくなったわね。こういう悩みも生きていればこそよね...」 母さんがぽつりと呟いた。 母さんと二人、もしかしたら大人になれないだろうと危惧した儚い存在、それが冬真だった。昔と変わらず儚い存在ではあるものの、冬真は確かに生きている。 「あぁ...大人になれて本当に良かった。スゲー頑張ったんだな...偉かったな...冬真。お父さん、スゲー嬉しいよ...」 頬を撫でてやると、冬真はくすぐったそうに、うにゃうにゃ言いながら寝返りを打った。 「可愛いわね......」 母さんが微笑んだ。

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