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Romeo and Juliet side K ~ Kosuke Y 's father ~
「おは...よ...ござ...い...」
朝の身支度を終え、リビングに入ってきた冬真の顔は、それは酷いものだった。ずっと泣き続けたのか、目の回りは赤く、かなり腫れていた。余りの痛々しさに、母さんは言葉を失っていた。
「おはよう!冬真。どうした?泣いたのか?せっかくの色男が台無しじゃないか?」
俺の言葉に冬真は俯いた。
「お父さん!」
母さんは悲痛な表情で、何か言おうとしていたが、俺はそれを制する。
「泣いちゃうぐらいのことがあったんだろ?悲しかったんだろ?」
「......」
「全部...お父さんに話してごらん。」
「えっ?」
どの部分に反応したのか、冬真は顔を上げた。
「何が悲しくて、何が苦しかったのか、全部話してごらん。お父さんが冬真の話、全部聞いてやるから...」
「......」
冬真はまた俯いた。
「冬真は本当に我慢強いよなぁ...それって、冬真の長所だけどさ、短所でもあるんだよなぁ...我慢強いのは結構!でも、それは時と場合によるんだよ。今は我慢しないで話すべきだ。泣いてしまうぐらい悲しかったんだから...お前が何に悲しんだのか、お父さんもお母さんも知りたいんだ。お前を苦しめるものから、お前を守りたいだけなんだよ。」
「......よぅすけ...いない...かなしぃ...よぅすけ...びょうき...かなしぃ...ぼく...なに...も...できない...くるしぃ...おきたぁ...ちがうとこ...ぼく...いらない...いないほう...いい...」
冬真は苦しそうに、ぽつりぽつりと話し始めた。
「そっか…話してくれてありがとな。お父さんもお母さんも、冬真のこと要らない人だなんて全然思わないよ。それにさ、葉祐が入院したのだって、冬真のせいじゃなくて、葉祐の問題だと思うぞ!」
冬真は顔を上げた。目に溜まった涙がとても美しく、思わず見とれてしまいそうになるほど。そんな自分を制し、涙を拭いてやる。
「本当に葉祐はバカだな...冬真をこんなに悲しませて...罰として、退院したらデコピンだな!葉祐はさ、じっとしていられないんだ。『安静に』なんて言われても無理なの。冬真のことが気になっちゃってさ。大好き過ぎて気になっちゃっうの。子供みたいで呆れちゃうだろ?それだけなら、『葉祐のバカ』で済むんだけど、ひょっとしたら、冬真にうつしちゃうかもしれないだろ?最悪の場合、今度は冬真が入院しなくちゃならない。せっかく元気になったのに、冬真がまた入院するなんて、お父さんは嫌だよ。分かった?葉祐が入院したのは、冬真が何も出来ないからじゃないんだよ。それと、目覚めたら寝室にいて驚いたと思うけど...お前はただ、葉祐を探していただけだ。不安に思わなくていい。我慢しすぎた心を開放しただけ。心配するな。分かったか?」
「は......ぃ...」
「そうだ!今日はみんなで店を手伝わないか?」
「ぼく......も......?」
「そうさ!冬真もレジぐらい出来るだろ?」
「う...ん...」
やっと、冬真の本当の笑顔が出た。
「ただな、客商売だから粗相は許されない。挨拶がない店なんてもっての外だ。だから、レジの前に冬真の体のこと書くけど大丈夫か?『上手に話すことが出来ません。ご挨拶がないこと、ご容赦ください。』って。平気か?」
「だいじょ...ぶ...よぅすけ...てつだい...うれし...」
「よし!よく言った!冬真は勇気があるな!エライぞ!」
くしゃくしゃと頭を撫でてやると、冬真は嬉しそうに笑った。
「しかし...冬真が店に出たら、反響ありそうだなぁ...お前、俺に似てイケメンだから!」
俺がそう言うと、母さんが急に吹き出した。
「何だよ~失礼だなぁ。」
「あははは...辞めてよ~そっくりなのは、葉祐の落ち着きがないところぐらいよ!美人で優しい冬真が、お父さんと似てるなんて...あははは...」
「ちぇっ。」
冬真は戸惑いながらも、クスっと小さく笑った。
そう...それでいいんだ...
何でも話してごらん...お父さんとお母さんに...
喜びは倍に...
悲しみは半分になるんだよ...
それだけは......忘れるなよ......
店が終わった直後、みんなで診療所へ向かった。入口から少し離れたところで、葉祐に連絡を入れた。個室に入るので、連絡は構わないと言われていた。葉祐は直ぐに通話に出て、熱も下がり、様子見だが遅くても明後日には退院出来そうだと言った。俺は窓の外を見るようにだけ告げ、携帯を冬真に渡し、母さんと二人その場を離れた。葉祐は姿を見せ、冬真の姿を見つけると、窓にへばりついて冬真を見つめていた。冬真もまた、切なさそうに葉祐を見上げていた。
「何だか...ロミオとジュリエットみたい。でも、この構図だと葉祐がジュリエットなのよね?絵的には逆の方がいいんだけどなぁ...というより、逆の方が絶対見たいんだけど...」
母さんが呟いた。
「確かに葉祐がジュリエットじゃ...色々と台無しだな。」
二人でクスクスと笑った。俺の落ち着きのなさより、母さんのそういう、おおらかさの方が葉祐とそっくりだろ?と頭の片隅でずっと思っていた。
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