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過保護と自立 #3 side Y

和室に入ると、冬真はあからさまに俺を意識し、寝返りを打ち、こちらに背を向けた。 「ごめん...入るよ...」 部屋に勝手に入ったことを詫びたが、冬真からの返事はない。しかし構わず、横たわる冬真を後ろから抱き締める。 少しだけクセのある、ふわりとした髪に顔を埋めた。 「ごめん...習い事自体は大賛成なんだ。冬真の力を信用してないワケじゃない。でも...心配で仕方ないんだ...どうしようもないぐらい。ごめん...だから...一人で行くなんて言わないで...」 やはり、冬真からの返事はなかった。そのまま冬真の髪にキスをし、 「おやすみ...気分が落ち着いたら...寝室においで。冬真...俺はいつもどんな時も...お前を愛しているよ。」 それだけを伝え、静かに部屋を辞した。しかしその晩、冬真が寝室に来ることはなかった。 翌朝、俺達は何もなかったようにテーブルに着き、共に朝食を摂った。しかし、必要なこと以外は話さず、あまりにもぎこちない朝だった。こんな日に限って、今日は店が休みで、久々に冬真のリハビリの送迎をすることになっていた。俺達はぎこちないまま家を出発し、車中でもその様子に変化はなかった。運転中にふと、数日前のことが頭をよぎった。 『今週のリハビリは俺が送迎するよ。』 そう伝えると、冬真はとても嬉しそうな表情をした。しかし、その表情も一瞬だけで、みるみるうちに曇っていく。 『どうした?』 『いい...の......』 『ああ。先週は冬真に寂しい思いをさせちゃったしさ。』 『ほんと?』 『ホント。』 『じゃあ...おねが...い...ある...』 『何?』 『でぱーと...つれてい...って...えきまえ...』 『駅前のデパート?何で?』 冬真は小さく折り畳んだメモ用紙を差し出した。開いてみてみると、そこには見慣れた文字で、恐らくワインの名前と洋菓子店の名前が書いてあった。この文字は冬真の担当療法士、佐々木氏のものに違いない。 『えきまえ...でぱーと...ちか...おいしぃ...わいん...おいしぃ...ぷりん...ある...ささきさん...おしえてくれた...おいしぃ...わいん...おじさんに...おいしぃ...ぷりん...おばさんに...ふたりに...ありがとう...きもち...』 『感謝の気持ちか...入院の時は世話になったし...うん。リハビリの帰りにデパート行こう!プリンは俺達の分も買おうよ!晩飯の食後のデザートにしようぜ。だけど...冬真はデザートまで辿り着けるかな?プリン食べたいからって、ご飯ちょっとだけはルール違反だからね。』 『だいじょぶ...りはびり...がんばる...おなかすく...ぷりん...たべる...』 珍しく鼻息荒く、細い腕で力こぶ見せたっけ。頭を撫でたら、あの時の冬真...スゲー可愛く笑ったっけ... 気まずい雰囲気のまま、病院に到着し、療法士の佐々木氏に冬真を託すと、二人はそのまま病院の建物内に消えていった。いつもなら、見えなくなるまで、何度も振り返り、手を振る冬真だが、今日は一度も振り返ることも、手を振ることもなかった。 帰宅するとソファーに体を沈めた。とにかく、何をするのも億劫だった。冬真は俺の言動に怒っているワケじゃない...ただ...どうしたら良いのか...分からなくて...戸惑っているだけだ。健気にも一生懸命、俺の心配を軽減し、かつ、親父の負担を軽減する術を必死で探そうとしている。昨晩、冬真が使った和室の寝具類を思い出し、片付けることにした。和室に入ると、布団は隅にキチンと畳まれていた。 「いつの間にか...こんなことも出来る様になってたんだなぁ...」 布団の上げ下ろしまでは難しいにしても、布団からシーツや枕パッドを外し、使用した寝具類を畳んで隅に置いておく...少し前の冬真からは考えられないくらいの大進歩だ。 やはり...冬真の意思と思いやりの気持ちを尊重して、一人で行かせてやるべきなのだろうか... そんな考えが頭に浮かぶと同時に、違う思考が頭を支配する。 いや...逆に考えれば、冬真が相手にわかるような滑舌で話すようになったのは、ここ最近のことで、それこそ数か月前は、話すことも出来ず、意思表示は瞬きだけ、移動手段は床を這うだけだったんだ...一人で行動するには...やはり早すぎる。反対は当然だ... そのまま、ドスっと畳まれた布団に倒れ込んだ。シーツや枕カバーから冬真の香りがした。優しい...甘美な香り... 冬真の意思を尊重しつつ、親父の送迎で通えるように説得してみろと親父は言った。 「そんなこと出来るのかな...」 安心を求めたくて...冬真の香りをもう一度、深く吸い込んだ。

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