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おねだり side T

今日、Evergreenはお休みで... 葉祐は朝からテキパキと家事をこなしている... 言ってみようかな...お願い...してみようかな... 上手く言えるかな...連れて行ってくれるかな... 上手く言えたところで...笑われちゃうかも... それでも...僕は...見てみたいんだ... だって...楽しそうだから... そう思っていたのに、今の僕はとても調子が悪い。体の調子じゃなくて、上手く話すことが出来ないんだ。声は出せる。でも...頭で考えていることが言葉にならなくて...会話にならなくて...自分の意思や考えが上手く伝えられない。例えるなら、唇がとても重たくて...開けづらくて...喉の奥で何かが詰まっている感じ。こういうことは、声が出るようになってから度々あった。タブレットがあれば会話はできる。だけど...葉祐はなるべくタブレットは使わないようにしようと言った。理由は教えてくれなかったけど、きっと...タブレットに頼ると徐々に僕の声が出なくなって、話が出来なくなるかもしれないと考えているんだ。葉祐にとって、それは...恐怖そのもの。葉祐を不安にさせるのは不本意だったから、僕はそれを了承した。頭の中で話すことが明瞭なのに、それを伝えられないことは歯痒くて、悲しくて、苦しかった。そのことが更に、僕から言葉や会話を奪っていく。 『人間誰だって、調子の良い時と悪い時があるんだ。冬真だけじゃないよ。大丈夫。頭に浮かんだこと、何でも良いから言ってごらん。単語だけでもいいしさ。とにかく黙ってるっていうのは無しだよ。言ってくれないと何も始まらないからね。』 そんな時、葉祐は決まって、僕の背中を撫でながらそう言った。 「冬真?どう調子は?」 「あ......」 「体の方は?痛かったり、ダルかったりしない?」 僕は頷いた。 「本格的に雪が降る前に、かさばる物や日用品買いに行きたいんだ。気分転換も兼ねて、買い物に行かない?ちょっと遠いけど、今日は駅の方じゃなくて、K町の方へ行こうと思うんだ。あそこならホームセンターとショッピングモールが隣接してるし、あのショッピングモールなら、至るところにソファーが点在しているから、冬真が疲れても直ぐに休憩できるだろう?いいかな?」 僕は頷く。 嬉しいよ...だって... あそこは...ちょっと特別だから... 「いや~今日来て正解だったよ。トイレットペーパーは店の分まで買えたし、配送料無料キャンペーンは大きいなかったな。冬真のおかげ!ありがとう!」 ホームセンターでの買い物を終え、ショッピングモールに入ると、葉祐はそう言った。そして更に続けて言う。 「冬真は何か欲しいものないの?ここでは、俺は食品と冬真の足湯に使うオイルを買うぐらいだから、最後でいいの。まずは、冬真の欲しいもの買いに行こうよ!そう言えば...塗り絵なくなりそうじゃなかった?花の塗り絵、新しいの買おうか?絵の道具は大丈夫?」 塗り絵も欲しいけど... それよりも... 見たい物があるんだ... でも... 「あ......あ......」 やっぱり...言葉が出て来なかった。 仕方がない... また今度にしよう... その時は...きちんと言えるといいな... ぼんやりとそんなことを考えていると、急に.背中が温かくなった。驚いて顔を上げると、僕の大好きな笑顔がそこにあった...

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