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11月30日 side Y

真剣な表情そのもので、クリスマスツリーと対峙している冬真の姿は、とても愛おしく、その姿を見ているだけでこの上なく幸せで、とても感慨深いものだった。 こんな風に穏やかな時間の中で、クリスマスツリーの飾り付けをしたのは、もう4年も前のことだ。あの頃は二人で暮らし始めて間もなくて、二人でクリスマスツリーを選び、ああでもない、こうでもないと言いながら飾り付けをしたっけ... それは...何てこともない、ありふれた光景だったけど...本当は柔らかい光に満ちあふれた...優しい光景だったんだ… それから間もなく、冬真は事件に巻き込まれた... 事件から約10か月後の3年前の今頃、飾られたツリーに冬真は目もくれなかった。一日の大半をベッドの上で過ごし、それ以外はソファーにじっと座っていた。いや、座っていたと言うよりは...そこでただ...呼吸をしていただけ... 2年前も表層的には、3年前とあまり変化はなかった。だけど恐らく、突如として現れたクリスマスツリーに、冬真は恐怖心を抱いていた。表情や声にするワケではないから、本当のところは解らない。しかし、少し荒く、早い呼吸をする冬真を見てそう感じた。だから...すぐにツリーを片付けた。あの時は片付けながら、随分涙を流したっけ... 去年は一昨年のことを思い出し、クリスマスツリーを飾ること自体を躊躇した。しかし、冬真に恐怖心ではない、何らかの刺激を与えられたらと、思い切って飾ることにした。恐怖心は無さそうだったが、冬真は何かに興味を示していた。最初は何を見ているのか、何を考えているのか全く分からなかったが、何日か見ていて気が付いた。どうやら雪に見立てられた、綿に興味を示しているようだった。 本物だと思っているのかな? 何でこんなところにあって、何で融けないんだろうって考えているのかな... 「本物みたいだろ?触ってごらん。」 冬真の手を取り、綿に触らせた。特段、何の反応も示さなかった。だけど...綿を小さくずっと撫でていた。 そして今年、冬真はツリーの飾り付けをしている。なかなか治まらない震える手を駆使しながら。その原因が頭部を何度も殴打されたことによるものなのか、心のどこかに未だに恐怖心があって、完全に拭いきれないからなのかは解らない。でも...来年の今頃は...手の震えが無くなってるといい... 「よぅすけ.....」 「うん?」 「よぅすけ...は...やらないの...」 「あーごめん、ごめん。冬真があまりにも綺麗だから、つい見入ってしまった!」 「もぉ.....」 毎度毎度懲りないなぁと言いたげな、頬を少し膨らませた表情をこちらに向けた。 「あっ!そうだ!冬真にプレゼントがあるんだよ!」 「プレゼ...ント?」 不思議そうに小首を傾げた。 「うん。じゃーん!!」 少し大きい目の紙袋から箱を一つ取りだし、冬真に差し出した。 「おもちゃ...?」 手にした箱を見ながら冬真は言った。その箱の左上には、見慣れたとある玩具メーカーのロゴがあった。 「それさ、アドベントカレンダーなの。知ってるだろ?アドベントカレンダー。箱の一つ一つに、お菓子じゃなくて、ブロックのパーツが入ってるの。組み立てると、人だったり、物だったりしてさ、完成したものは街並みの一部になるみたいなんだよ。冬真、こういうの好きそうだなぁと思ってさ。細かいパーツが多いから、少し難しいかもしれないけど、俺は冬真一人でも作れると思うよ。街並みそのものも売ってるみたいだから、気に入ったら、それも買って、冬真と俺の街を作ろうよ!」 「かふぇ...うみ...ある?」 「カフェと海?何で?」 「かふぇ...えばぁぐりーん...ぼく...すき...うみ...また...いく...ぼく...すき...」 「そっか。今度探しに行こうか!海とカフェのある街並のブロック。二人で探そう。」 「うん...」 冬真はアドベントカレンダーのパッケージを震える指先で辿っていく。 「ゆきだるま...いぬ...さんた...さん...あっ...クリスマ...スツリー...」 冬真は飾り付けを思い出す。 「よぅすけ...」 「うん?」 「たのしみ...あした...」 「うん。何が出てくるかな?明日...」 「うん...」 冬真はクリスマスツリーの下にアドベントカレンダーを置き、飾り付けを再開した。悪戦苦闘を強いられてはいるものの、やはりどこか楽しそうだ。 『明日が楽しみ』 冬真はそう言った。 その言葉を聞いて、視線をキッチンカウンターに移した。そこにはシュトーレンが4つ並んでいた。野上さんの奥さんから教えてもらいながら作ったものと、材料のドライフルーツのラム酒漬けを譲って頂き、その翌日、おさらいで作ったもの。冬真が初めて作ったシュトーレンにだけリボンを付けた。そのシュトーレンは特別で...俺達にとっては記念のものだから...二人だけで食そうと話し合って決めた。 シュトーレンとアドベントカレンダー... 明日が来ることが...こんなにも待ち遠しく、優しくて温かい、光に満ちあふれた今年の11月30日。クリスマスツリーと再度対峙する可愛らしい冬真の姿を見つめながら、冬真の頑張りと勇気があって、今日という日が存在する。感謝と敬意を込めて、俺はそっと頭を垂れた。

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