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本心 #1 side Y

『たまには東京に遊びに来ないか?』 冬真の伯父、岩崎広行氏から、そう連絡が来たのは先日のことだ。 『兄のオフと私のオフが一緒になることなんて、めったにないのだけれど、今月たまたま1日だけあってね。良かったら四人で食事でもどうかと思って...本来なら二人でそちらに行くべきなんだろうけど、ちょっと無理そうなんだ。もちろん、交通費、宿泊代、食事代、全てこちらで負担するよ。まぁ...宿泊と食事は恐らく、うちの関連だけどね。考えてみてくれないか?』 「分かりました。少し時間を頂けませんか?冬真...つい先日まで、調子が少し悪かったものですから...」 『えっ?心臓?』 「いいえ。時々ですけれど...言葉が上手く出なくなるときがあるんです。」 『大丈夫なの?』 「原因はよく解ってないんです。ドクターのお話だと、未だ恐怖心がどこかにあって、安らぎを求めて潜在意識の中で心と体、どちらかに歯止めをかけてしまうみたいなんです。なので、特に治療法もないんです。だから私は今まで通り、時間をかけて、もう怖いことは起こらないことを伝えることに努めています。それに、今は何が言いたいのか解りますから、ご心配には及びません。とにかく、冬真に相談してみます。それからお返事します。それでもよろしいでしょうか?」 そう広行氏に告げ、了承を得て通話を切った。冬真にその旨を伝えると、意外なことに、冬真の答えはNOだった。 「どうして?広行伯父さんに会いだろ?」 冬真は頷く。 「もう一人の伯父さん...えーっと...」 「まさ...ふみ...」 「あっ!そうそう!正文伯父さん!この伯父さん、もう何年も会ってないんだろ?」 「う...ん...」 「正文伯父さんの方も、きっと冬真に会いたいと思うぞ?」 「......」 「冬真?何か気がかりがあるの?あるのなら、ちゃんと教えて!」 「ぼく...ごはん...ひとり...だめ...」 「何で?」 「こぼす...きたない...」 「仕方ないよ。それは。それにどんな料理を食べるのか分からないけど、どんな料理でも食べやすいようにしてあげるし、一人で食べるのが無理そうなものは、きちんとフォローするしさ。何年も会ってないのなら、こういう機会に挨拶だけはしておくべきじゃない?じゃないと...ドンドン疎遠になっちゃうよ?」 「かんが...え...る...」 冬真はそれきり黙ってしまった。しかし、それから3日後、 「とうきょ...いく...あいさつ...しないと...」 冬真はそう言って微笑んだ。俺はその笑顔を見て安心した。 だけど... 俺は気が付くべきだったんだ。冬真の本心がそこにないことを... 以前、親父は言っていた。冬真は優しく、穏やかだけど、心の奥底にとても熱くて強いものを持っていて、人のためにすぐに自分を犠牲にしてしまう。だから、本心がどこにあるのか、見極めてやらねばならない。それを誤れば、話の本質が全然違う方向に進んでしまう...と... 俺は常にその事を頭に入れて置かねばならなかった。 いや、頭に入っていると思い込んでいた。 実際は...全く頭に入っていなかったのだ。 二人の伯父との食事会の参加… 何てことない普通のこと... だけど...冬真はもうすでにこの時から.、少しずつ自分を傷つけ始めていたんだ。

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