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本心 #2 side Y

広行氏との約束の日、母さんに店を託し、冬真と二人、上りの新幹線に飛び乗った。 『少し休めば?』 普段一緒に乗車ことは滅多にないけれど、一緒の時は必ずかけていた言葉。でも、今日は違う。 「早くてあんまり見えないかもしれないけど、少しは楽しめるかもよ。」 そう言って窓際に座らせると、冬真はやっぱり窓にへばりついて外の景色を眺めていた。 「よぅすけ...」 「うん?」 「はやい...ね...め...くるくる...」 目が回る。そう言いたいのだろう。戸惑いながら苦笑する冬真がこの上なく愛おしい。抱きしめたい衝動に駆られた。体力が持続しない冬真は、ほどなく眠りに就いた。そっと上着を掛けてやって、周りから見えないように...上着の中で手を繋いだ。常時冷たい冬真の指先が、一瞬でも温まりますように...と祈りを込めながら... 東京駅から電車を乗り継ぎ、指定されたウォーターフロントにそびえ建つホテルに着いた。そこは岩崎とは全く関連のない施設で、東京駅からのアクセスは少し不便な立地にあったが、最寄り駅を走る路線の車窓から見える景色は素晴らしく、東京湾を短時間堪能するには充分だった。冬真ではないが、俺でもその車窓から見える景色をついつい見入ってしまう。現に冬真は、窓にずっとへばりついていた。 チェックインを済ませ、時計に視線を移すと、約束の時間まではまだまだある。その場所には多くの商業施設や娯楽施設が点在していたが、海浜公園なども多く点在していた。 「海浜公園でも散歩する?」 「う...ん...」 冬真からの返事は、あまり気乗りしないと伝わるようなものだった。 「いや?嫌なら辞めて、少し部屋でゆっくりする?」 「ううん...いや...ちがう...でも......」 「でも?」 「すこし......だきしめ...て...」 「うん。もちろん!おいで。」 俺は冬真を抱きしめる。 「どうした?疲れちゃった?」   俺の問いに冬真は、 「......そうだね......そう......そうだね......」 と小さく答えた。 「そっか。久々の東京だもんな。少しゆっくりしようか?」 「あれ......?よぅすけ...ドキドキ...してる......」 俺の胸に耳を寄せ、冬真は呟いた。 「あははは。バレたか!実は俺...スゲー緊張してんの。」 「なん...で?」 「よくさ、テレビドラマとかで、彼氏が彼女の実家に行って、『お嬢さんをください』みたいな場面あるだろう?今、正にその彼氏みたいな気分なの。広行さんには了承を得ていると思うけどさ、正文さんはどうかな...『俺の可愛い冬真を、貴様の様なワケの解らん奴のそばに置いてはおけん!』なんて言われたらどうしよう...」 「だいじょ...ぶ...よぅすけは.........みんな...よぅすけ...すき...まさふみ...おじさま...よぅすけ...すき...なる...」 「だと良いんだけど...ありがとう!励ましてくれて...」 「うん......」 冬真からはそれ以上何も返ってこなかった。 『抱きしめて...』 確かにあの時...冬真はそう言った。その言葉を長旅と久々の上京の疲れから来るものと受け取ってしまった俺。今になってはあの時のこと...本当に後悔している。どうして解らなかったんだろう... この時点で冬真は...微弱ながらもSOSを発していたのに...

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