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年末の出来事 #1 side Y

リビングの窓際にペタリと座る冬真の視線は、外へ向かっていた。何かを見ているようで、きっと何も見ていない。 「何見てるの?」 振り返る冬真からは何の返事もないが、それでも穏やかな笑顔を見せた。 「さぁ...もうソファーへ戻ろう。このままだと冷えちゃうよ。また熱が上がったら大変だからさ。」 冬真の手を取り、立たせるとソファーへと誘う。 途中退席した二人の伯父との食事会の直後、部屋に到着した途端、冬真は急に意識を失った。慌てて横抱きにし、ベッドに寝かせ、冬真に触れた。心なしか少し熱い...恐らくこの発熱は、心理的な要因からくるものだろう。あれだけ酷い罵声を一人、この繊細な心と体で受けたのだ。やむを得ない。苦しい気持ちを発熱で解放する...これは冬真の体が覚えた、唯一心を救う方法だった。このままここで休ませた方が賢明だ。しかし、体調が急変して、何日も床に伏せるようになって、主治医の診察を受けられなくなる方が大きなダメージだと考えた俺は、レンタカーを手配してもらい、部屋をチェックアウトし、N市を目指した。途中で、西田さんと親父に連絡を入れた。西田さんには勤務先であるホテルの一室を、親父には、明日、病院まで迎えに来てもらえるようお願いした。このまま家に帰るより、病院に近い西田さんのホテルに泊まった方が、病院に行くことになった場合、冬真の体への負担が少ないと考えたのだ。案の定、翌日になっても熱は下がらず、主治医の診察を受けた。主治医は言う。やはり、発熱は心因的なもので、直に下がるだろうが、懸念されるのは心のダメージだと。確かにあれ以来、冬真の口数は激減した。最初は発熱のダルさからと考えていたが、本当は言葉が上手く紡ぎ出せなくなっているのかもしれない。結局、冬真の発熱は三日続き、熱が下がったのは昨日のことだった。 体があまり丈夫でない冬真が何日も寝込むということは、想像以上に体に大きな負担を与える。 「ダルい?ソファーじゃなくて、ベッドにする?」 ソファーとは真逆にセットした折りたたみベッドに方向転換しようとすると、冬真はそれを拒んだ。冬真をソファーに座らせ、ブランケットを掛けてやると同時に、家の呼び鈴が鳴った。 「誰だろう?」 玄関を開ければ、そこには母さんが立っていた。俺は母さんを招き入れた。 「どう?冬真の様子は...」 「うん。熱は下がったんだけど...上手く言葉が出ないみたい。だけど、こっちが言うことには笑ったりして、快方には向かっていると思う。」 「そう。じゃあ...大丈夫かしら...?」 母さんはその言葉だけを残し、リビングへと消えて行った。 「冬真?調子はどう?」 リビングに入り、開口一番そう言った母さんを見て、冬真は嬉しそうに笑った。 「うん。可愛い...どれどれ熱は?」 母さんは両手で冬真の頬に触れ、その後、右手を額に乗せた。 「うん。大丈夫ね。冬真?あのね...お母さん...あなたにお願いがあるのよ。うちに来てもらえないかしら?」 「......」 「多分、今夜は泊まってもらうことになると思うんだけど...あぁ、もちろん無理だったら途中で帰っても大丈夫よ。どうかしら?」 冬真はちょっと戸惑った表情をして、俺を見つめた。 「体と相談して、冬真が決めて良いんだよ。」 俺の言葉を最後に、沈黙がしばらく続いた。 「......ぃ......く......」 冬真は小さな声でそう言った。

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