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新年の出来事 #3 side Y

「葉祐?大丈夫?」 母さんが呼ぶ声で我に返った。 どうやら数時間前のことに思いを馳せていた時間が長かったらしい。 「あっ、うん。大丈夫。だだ......」 「うん?」 「何か...色々出来るようになったんだなぁ...餅まで食べられるようになったなぁ...って。」 「そうね...去年は食事どころか、話すことすらも出来なかったんですものね...本当に頑張ったわ...」 「冬真は努力家だから...」 「冬真もだけど、葉祐...あなたもとても頑張ったわ。」 「えっ?俺?俺は別に...」 「冬真の努力なくして今はないと思うけど、葉祐の支えなくしても、今の冬真はないと思うわよ。」 「そんなこと言うなら、父さんや母さんだって...」 「私達は時折、自分達の役割を果たしたまでよ。皆の頑張りや想いが少しづつ実っていったのね。でも...私達が冬真のために頑張れる理由は、やっぱり冬真だからなのよね。あの子は本当に良い子だから...」 「そうだね......あっ、そう言えばさ、あの金平糖は何だったの?スゲー不思議に思ってたんだ。あれ食べた途端、急に言葉が出るようになったからさ。」 「あれは頂き物の普通の金平糖よ。一種の自己暗示だと思うわよ。偶然の産物だけど。ちょうど金平糖を食べていた時に、お父さんが言ったの。『うちの家庭の味を覚えるんだから、冬真はもう俺の息子だなぁ~もう、おじさんはダメだ!今日からはお父さんって呼ぶんだぞ!』って。それからは半ば強制的に呼ばせてて、私から見たら、かなり滑稽な感じだったけど、冬真にしてみたら、どこかホッとしたんじゃないかしら。」 「安心ってこと?」 「上手くは言えないけど、お父さんのその一言が拠り所の一つなったというか...冬真の不安や悲しみが少しだけ薄らいだんだと思う。その時、口に含んでいた金平糖の味とお父さんの言葉が重なって、冬真にとって金平糖は、幸せの象徴になったんじゃないかしら?」 「なるほどねぇ...」 「金平糖を口に含むと、お父さんの一言が後ろ楯になって、一瞬でも色々な物から解放されたんでしょう...きっと。だから言葉もスムーズに出るようになったんじゃないかしら?今度の受診の時にでも、先生に伺ってみたら?」 「そうするよ。あとさ、もう一つ聞いても良い?」 「ええ。何?」 「冬真のトートバッグの中に、毛糸とかぎ針が入ってるんだけど...あれは何?」 「ああ...あれはね...ちょっと待ってて。」 母さんは立ち上がり、リビングに置いてあった本を一冊持って来て差し出した。それは、かぎ針で作る編み物の本だった。母さんはページをめくり、ある場所でその手を止めた。そこには白い毛糸と茶色の毛糸で作られたくまのあみぐるみが載っていた。 「冬真はね、これを作ってるの。」 そう言って、白い方のくまを指した。 「元々は私がこの本に載っている別のものを作っていたんだけど...それを見ていた冬真がね、『やってみたい』って言ったの。じゃあ、好きなもの選んでごらんってことになって...冬真はこれを選んだの。これなら簡単だし、おせちの調理時間の隙間を利用して作ってみようってことになったのよ。」 「へぇ...でも、あの手で大丈夫なのかな?」 俺の脳裏で冬真の震える指先がよぎった。 「そうね...でも別に期限があるワケでもないし、時間がかかっても構わないんだから良いんじゃない?冬真のやってみたいっていう気持ちと、それを声に出せたことを尊重してあげることが一番大切だと思うの。」 「母さん...?」 「うん?」 「冬真...幸せかなぁ?」 「さぁ...それは冬真が決めることでしょ?」 「うん......」 「でも...好転はしているんじゃないかな。とにかく、私達は今まで通り、自分達の出来ることをするだけよ。あの子の笑顔のためにね。」 「うん...」 「あっ!そうそう!金平糖、まだあるんだけど食べる?」 「うん。食べる。」 母さんが目の前に出してくれた金平糖は、色とりどりで、可憐さと美しさを放っていた。冬真が幸せの象徴と考えたもの...その気持ちが何となく分かる様な気がした。一粒口に含むと、品のある甘さが一気に口中に広がった。 「お星様の魔法か......」 控え目ながらも持続するその甘さに、心がほっこりして、更に幸せな気分になった。

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