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儚い人 #1 side Y

「ようすけ...?」 「うん?」 「ぼく......かれーが...いい...」 「えっ?今晩?」 「ううん...ぷれぜ...んと...」 「プレゼント?誕生日の?」 「うん...ようすけの...かれー...がいい...」 「カレーなんて散々作ってるし、俺の作るのなんて全然普通だし...何なら今日の晩ごはん、カレーでも良いよ!」 「ううん...たんじょう...びが...いい...」 「誕生日のリクエストがカレーだなんて...今日日の小学生だって言わないぜ?」 「でも......かれーが...いい...ようすけの...かれー...とくべ...つ...ぼく......」 玄関の呼び鈴で目が覚めた。 いつの間にかうたた寝していたらしい。時計をチラリと見れば、そんなに時間は経過していなかったが、夢を見ていた。先日、交わした冬真との会話の夢を... 再び、呼び鈴が鳴った。 この時間の呼び鈴は、冬真が病院から帰って来たことを知らせる。慌てて玄関に向かった。 「おかえり!」 ドアを開ければ、いつもの綺麗な笑顔はそこにはなく、冬真は玄関先でしゃがみ込んでいた。 「冬真!」 慌ててそばに駆け寄ると、冬真はぽつり、 「ただ...いま...」 と呟くように言った。支えるように体を抱き上げ、冬真を家の中に入れた。 「大丈夫か?一体どうした?何があった?」 背中に嫌な流れる。 まさか...また何か事件に巻き込まれたんじゃ... 俺の問いかけに対し、冬真はただ首を横に振るばかりだった。 「冬真!」 何も話さそうとしない冬真に対し、焦りの気持ちをぶつけるように荒げた声を発していた。冬真は一度大きく体をびくつかせ、その後は小刻みに震えていた。 「ごっ...ごめん。大きな声を出しちゃって...」 やはり、首を横に振る。 「どうした?何があったか言ってごらん...」 「ようすけ......」 「うん?」 「す...こ...し...やす...み...た...」 そこまで言うと、冬真は突然意識を失い、俺の腕から崩れ落ちた。 「冬真!冬真!」 慌てて冬真を抱き上げ、寝室まで運ぶ。 どうした?一体何があったんだ? とにかく 早く...早く天城先生に連絡をしなければ...

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