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1月16日 #2 side Y

1月16日 今日、この日は俺にとって一番大切な日。 1月16日 そんな大切な日なのに、普段と変わりなく、俺は店を開ける。 休みにすれば良かったなぁ... そうしたら、今日一日ずっと一緒にいられたのに... 来年から1月16日は定休日にしようかな... あーあ...... 「やっぱり今日、臨時休業にしちゃおうかなぁ...」 「どうして?」 ぼやく俺に冬真は小首を傾げて尋ねる。冬真のこの可愛らしいクセが、更に俺をぼやかせる。 「だってさぁ...せっかく冬真の誕生日なのに...」 「ふつう...の...どようび.…..」 そんな俺をたしなめるように、冬真が普段と何ら変わらない日だと強調する。 「でもさ、今日はリハビリもボランティアも休みなんでしょ?」 「うん...」 「だったら今日、休業にすればずっと一緒にいられるじゃないか!」 「どようび...ひと...たくさん...くる…」 「でもさ......」 「どようび...とおくから...くる...ひと...たくさん...やすみ...さびし...」 先々月、俺の店『Evergreen』は、N市とK町のタウン誌に紹介された。タウン誌の効果で土日の来店客はとても多くなっていた。 「だけどさ......」 「ぼく...きょう...みせ...てつだう...もうすぐ...ぱん...やける...」 真新しくなったキッチンで、駄々をこねり続ける俺を諭すように、俺の頬を上下に撫で付け、小さく笑いながら冬真が言った。 冬真が店を手伝う... それは俺に幸せをもたらす反面、イライラの元でもある。店のユニフォーム代わりでもあるグリーンのエプロンを身に纏った冬真はとても美しく、可愛らしく、清潔感と同時に彼特有の色気も醸し出していて、見ているだけでドキドキした。冬真が時折、俺だけに微笑みかけてくれる...それだけで昇天しそうになり、その都度、幸せな気持ちと疚しい気持ちの板ばさみになった。しかし、最も厄介なのは、そんな最上級に美しい冬真を、営業時間中ずっと他人の目に晒すことだった。最近、冬真狙いの客がかなり増えていた。ただ見つめるだけの人もいれば、冬真の可愛らしい仕草に黄色い歓声を上げる集団、積極的にアプローチを仕掛ける人...明らかに解りやすいこれらに対し、天然の気がある冬真は、全く気が付く節がない。これは早急に虫除け対策をせねばならない。しかし、これといった妙案も思い当たらず今に至る。あからさまなボディタッチや見るに見かねるアプローチがあった時、コーヒーの配達と称し、俺は隣にある管理室に冬真を逃がした。これなら自然に客と冬真を引き離すことができ、冬真も何の疑問を持つことなく、コーヒーを持って管理室へと出掛ける。そして、何も言わずとも、全ての事情を察知してくれる真鍋さんによって、冬真はしばらく引き止められ、話し相手にならざる負えなくなり、店には当分戻れないという寸法だ。 「かえって...きたら...ようすけの...かれー......たのし...み...」 焼き上がった一口大のシナモンロールをオーブンから取り出し、頭上にあるコンロに乗せてある鍋を見つめながら冬真はそう言い、俺に向かって満面の笑みを送ってくれる。 ホント...人の気も知らないで...暢気なもんだよなぁ... でも...そんなところも含めて...何もかもが可愛いんだけど…... 1月16日 それは...愛しい冬真が...この世に生を受けた日 初めて二人で祝うことが出来る今日 一日中冬真を見ながら... ドキドキしたり...ハラハラしたり... 幸せな気分になったり...恥ずかしいことに...下半身が疼いたり... 何とも忙しい一日になりそうな予感...

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