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1月16日 #4 side T

によって吐き出された快楽...あんなに激しい、本能剥き出しの野性的な葉祐は初めてで、僕にとってはかなり衝撃的な夜だった。しかし、それも夢だったのではないかと錯覚してしまうほど、シーツやパジャマは新しいものに変えられ、僕の体に吐き出された二人の快楽も、跡形もなく消えていた。 風呂に入れてくれたんだ... お礼が言いたくて右側を向けば、いつもあるはずの僕の大好きな寝顔はそこにはなかった。反対側を向き、サイドテーブルの上にある時計を見た。いつもよりかなりの寝坊していることに気が付き、慌てて起きようとするけれど、体が思うように動かない。時計のそばには紙切れが一枚と、皿に乗せられ、ラップに被われたおむすびと水筒が置かれていた。紙切れを手に取った。そこには見慣れた文字で、 昨日はごめん。 今日はゆっくり休んで下さい。 なるべく早く帰ります。 葉祐 と書かれていた。 葉祐...君は自分を責めているの? 僕なら大丈夫だよ... 僕の方こそごめんね... きっと...葉祐を寂しくさせる何かがあったか...僕がそうさせちゃったんでしょ? 昨日の出来事を順を追って考える。朝から起きてから、葉祐に組敷かれ、意識を失うまでのことを一つ一つ丁寧に。何度考えても『これだ』という特別、切り札になったものはない。だけど...小さい、本当に極僅かの不安や不満が貯まりに貯まって、抑え込んでいた独占欲が解き放たれ、あんな行動に出たということは漠然と分かっていた。それは僕自身の問題と葉祐と二人のこと、周囲のことが複雑に絡み合うこと... どうしたら良いのかな... 玄関の呼鈴が鳴った。 誰だろう? 我が家を訪ねて来る人は数えるほどしかいない。体の自由が利かないことをすっかり忘れ、ベッドから出ようとして、そのまま腰から崩れ落ち、床に倒れてしまう。そのまま身動きが取れず、僕は床に伏したまま、どうすることも出来なかった。 どうしよう...... このまま這えないこともない。 でも...入口のドアに手が届かない... どうしよう... こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえ、僕は緊張した。 誰?鍵は? どうしよう...どうしよう... 今度はドアをノックする音が聞こえ、僕は恐怖のあまり、目を瞑った。 「冬真!冬真!どうしたんだ!」 ドアが開く音から、少しだけ遅れてその声が聞こえ、温かい手が僕を抱き起こしてくれた。 「おと...う...さん?」 「そうだよ。分かるか?」 「うん......」 「立てる?」 葉祐のお父さんの言葉に、僕は首を横に振る。 「病院、病院に連絡しなくちゃ!」 お父さんが慌ててスマホを取り出した。 「びょうき...ち...がう...ころんだ...だけ...」 僕の言葉にお父さんは安堵の色をみせた。 「支えてやれば起きられそうか?」 「たぶん...」 何度も崩れ落ちそうになりながらも、お父さんの肩を借り、何とかベッドに戻ることが出来た。 「ごめんなさい...」 「いや。構わないさ。しかし...一体何があった?」 「よびりん...なって...でようとしたら...ころんで...」 「そっちは分かったよ。しかし、体の方はどうした?何で今日は力が入らない?自力で立ったり、歩行したり出来ないなんて...まるで腰が砕けたみ......あっ!」 何かに気が付いたように突然叫んだお父さんと目が合った。 「冬真、ごめんな。少しだけ体を見るよ。」 お父さんは僕のパジャマの襟と袖を少しずらした。 「これは……」 お父さんは言葉を失くしていた。僕の体がこうなった原因に気が付いたのだろう。僕はもう恥ずかしくて...すっと瞳を閉じた。 「こんなになるまでなんて......可哀想に...ごめんな...冬真......」 お父さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。 「だいじょ...ぶ......」 「店を覗いて来たら、冬真の姿が見えないから、どうしたのかと思って来てみれば、こんなことになってるなんて...何があったのか知らないけれど、どんなことがあっても、ここまでは酷すぎる。これはガツンと言わないと…」 「おとうさん...ようすけ...しかるの...?」 「ああ。」 「ようすけ...ひとり...わるい...ちがう...ようすけ...さびし...だけ...そう...させた...ぼく...わるい...」 「冬真...お前の気持ちは嬉しいけど…これはダメだ。」 「おねがい...」 「でも...」 「じゃあ...さいとうさん...れんらく...して...」 「斎藤さん?葉祐と同期入社の斎藤君?」 「うん...さいとうさん...ようすけ...のこと...こまったら...れんらくして...いった...さいとうさん...いつも...ぼくの...なやみ...たすけてくれる...」 「番号は分かるかい?」 「いえの...でんわ...たんしゅく...」 「分かった。」 お父さんが固定電話の子機を渡してくれた。僕は葉祐から教えてもらった短縮ナンバーを押し、斎藤さんに連絡を入れた。

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