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嫉妬と暴挙と制裁と #3 side S ~ Saito ~
なんて可愛らしい生き物なんだ...
目の前で項垂れるように座る冬真君を見て、心底そう思った。
突然掛かって来た電話から数時間後、待ち合わせたホテルのラウンジで事情を聞いた。きっと、全てを話してくれたワケではない。冬真君のことだ...葉祐の名誉に関わる様なことや、葉祐に不利になることは秘めているはずだ。襟元や手首からチラチラと見える赤い花びらのような赤いあざ。数が多すぎて逆に痛々しい。そのシャツの下にはきっと...おびただしい数の花びらが散らばっているんだろ?不自然に車イスに乗ってるのも、これで合点がいったよ。
葉祐の嫉妬心と独占欲
冬真君を自分の腕の中に留めておきたくて、暴徒化した葉祐と、そんなアイツを黙って受け入れる冬真君。葉祐の親父さんが、冬真君を連れて家を出たのも理解できる。確かに今は二人を離すべきだ。これ以上、二人が一緒にいるのは危険だもんな...
それにしても...葉祐のヤツ...
世間が冬真君を放っておかないことも、冬真君にはお前が全てなのも分かってるはずだろ?だからこそ守ってやらなくちゃなのに...どうしたんだよ。一体何があった?
「ぼく...ようすけ...しんぱい...させた...ぼく...わるい...もう...かなしま...せたく...ない...」
そう言いながら、冬真君はますます小さくなっていった。
何言ってんだよ…君が悪いワケじゃないだろ?
君はただ...葉祐の嫉妬心と独占欲に捲き込まれただけじゃないか...
それなのに何で自分を責める?
こんな風にされても...どうして葉祐を庇う?
健気すぎて涙が出そうだよ...
葉祐を呼び出して、直接こっぴどく注意するのが一番簡単なはずだ。だけど、そうしたところで、冬真君はまた自分を責めるだけだ。只でさえ、自分の存在価値に対して否定的なのに、それを更に強調させてしまうかもしれない。繊細な心をさまよわせてしまう可能性だってある。葉祐の親父さんもそれが分かっているから、敢えて葉祐に何も言うことなく出てきたのかもしれない。
冬真君を傷付けず、葉祐を成敗する方法
冬真君を苦しみから解放してやる方法
妙案が全く思い付かない。
う~ん......
空を見上げたところで、スマホが着信を知らせる。冬真君も顔を上げ、電話に出るように促した。ディスプレイを確認すると、そこには、後輩の石橋の彼女、沢井香の名前があった。
「もしもし。香ちゃん?どうした?」
『斎藤さん?お疲れ様です。今、大丈夫ですか?』
「ああ。」
『すみません。由里子さんに連絡しようとしたんですけど、全然繋がらなくて...』
「悪い!由里子は今日、真生を連れて映画を観に行ってるんだ。上映中で電源切っているのかも。」
『あぁ、そうだったんですね。すみません。』
「いや...何か用事があったら、伝えるけど...」
『いいえ。特に急ぎではないんですけど...斎藤さん、今、海野さんのご自宅の住所分かりますか?』
「うん、分かるよ。それに…今、冬真君と一緒なんだ。」
『冬真さんと?斎藤さん、今、どこにいらっしゃるんですか?』
「Pホテルのラウンジ。」
『ちょうど良かった!斎藤さん、冬真さん連れてS町まで出てきてもらえませんか?海野さんがダメなら冬真さんです!全く...海野さんは......』
珍しく少し鼻息の粗いの香ちゃんに圧倒され、冬真君と少し離れたところに座る親父さんの了承を得て、俺と冬真君は香ちゃんの待つS町へと向かった。
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