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嫉妬と暴挙と制裁と #6 side T

「お二人の意志が明確ならば、あなたからリングをお渡しするのも素敵だと思います。ですが、冬真さん。一つだけお伺いしたいことがあります。」 そう言った後、藤原さんは僕の前に膝まづいた。 「その前にあなたの手に触れますが…よろしいですか?」 その言葉に僕は頷く。 「ここには今、男性しかいません。だから...正直に話して欲しいのです。冬真さん...あなたのパートナーがあなたにしたこと...それは同意の下だったのですか?」 「えっ......」 「私が想像するに違いますよね?確かに肌を重ねることは同意したのだと思います。でも...下世話なもの言いで恐縮ですが...いつもの彼の愛し方とは違いましたよね?それも、あなたが戸惑ってしまうくらい...」 「......」 「職業柄、洞察力と推察力は逞しくなったんです。時折、あなたの襟元から垣間見える体に刻まれた紅い花びらと、皆さんのお話で何となく察しました。失礼しますよ。」 藤原さんは僕のシャツの左袖のボタンを外し、袖を少しまくり上げた。そこには昨晩、葉祐が僕の体に咲かせた紅い花びらが無数に散らばっていた。 「いつもは彼がひっそりと咲かせてくれる紅い花...しかし、今は狂気を帯びた物にしか見えません。これは明らかにルール違反です。あなたはそんな彼を許せますか?」 「ゆる...す...?」 「そう...許す。彼を信じて、これからも寄り添っていけますか?」 「ようすけ...ぼく...ずっと...いっしょ...ようすけ...わるくない...ぼくが...わるい...ようすけ...さびし...かなし..そうさせた...ぼく...わるい...だけど...」 「だけど?」 「だけど...どうしたら...いいのか...わからない...」 「冬真さん。あなたは可憐でとても美しい。正にあなたの描かれる作品そのもので、私には言葉もありません。そんなあなたを世間の人々が放っておくワケがありません。まして、あなたがフリーだと思えば尚更です。パートナーの方は、不安で不安で仕方がないのだと思います。あなたの心が自分に向かっていると分かっていてもね。二人の絆を形にしたものが必要なのは、案外、彼の方なのかもしれないですね。しかし、彼には...今回の暴挙の制裁は必要です。」 「おとうさん...おなじこと...いった...ようすけ...はんせい...させる...ふたり...はなす...しばらく...とうきょう...ぼく...いや...」 「でもね...それは二人のためなんです。二人がこの先、ずっと幸せに過ごすために必要なことなんです。彼のためでもあるのです。心苦しいかもしれませんが......東京滞在は調度良い機会です。そうだ!冬真さん、東京滞在中良かったら、私の店で働きませんか?」 「ここで...?」 「え絵。パートナーの彼もカフェの経営をされているのでしょう?ここでの経験は、今後無駄ではないと思いますよ。経験を積んで、あなたの悩みを解消していきましょう。彼にもきちんと制裁を与えつつね。」 「そんな...」 「大丈夫。そんな悲しそうな顔しないで。あなたにも彼にも酷いことはしません。約束します。」 「ほん...と...ですか?」 「ええ。まずはマリッジリングを作りましょう。二人の愛を形にして、彼を安心させてあげましょう。その前に...お二人の大事な絆を私なんかがデザインしてもよろしいのでしょうか?」 「はい...もちろん...」 「ありがとうございます。まずは彼の話を聞かせてください。彼の人となりや、二人が出会った頃の話を。その前にコーヒー淹れますね。もうすぐ香さんも帰ってくるでしょうから...」 藤原さんは立ち上がり、僕の肩を優しくポンと叩くと、厨房に消えていった。

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