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一目惚れ side Shun 〜Shunsuke Fujiwara 〜
一目惚れ...
初めて会ったばかりの人なのに、一瞬にして恋に落ちる。そんなことあり得ない。小説や映画の世界の話、俺には関係のないこと、ずっとそう考えていた。そう…彼に出逢うまでは...
「兄さんはさ、結婚…しないの?」
これは弟の口ぐせ。しょっちゅう顔を合わせるワケではないけれど、たまにふらっと店に来てはこの言葉を呟く。
「さぁ...」
「さぁ...って…結構良いもんだよ…結婚。」
「お前のところはどれぐらいになる?結婚して。」
「もう6年。デキ婚だけどね。まぁ、兄さんは昔からモテるからなぁ...家の前に女の子が待っていたことが何回もあっただろ?しようと思えば、いつでも出来るんだよな。兄弟なのに、俺と兄さんじゃ格差ありすぎだもん。」
「そんなことないさ。」
「いやいや...そもそも土台が違うじゃない?まぁ、半分は同じだけどさ。兄さんのお母さん...綺麗な人だったもんな。何であんな綺麗な人が親父と結婚したんだろ?七不思議レベルだぜ?親父はさ、母さんぐらいで丁度だよ。」
「母さんに失礼だろ?」
「気を遣わないでよ。俺も母さんも兄さんと血が繋がってないこと、普段はすっかり忘れているんだからさ。兄さんが高校卒業してすぐ家を出た時、俺と母さん、結構悩んだんだぜ。ほら、ドラマでよくあるだろ?後妻とその子供がさ、先妻の子を追い出すみたいな話。俺達はそんなつもりはなかったけど、兄さんの居場所、取ってしまったんじゃないかってさ。」
「それこそ気にする話じゃないさ。俺の母親は亡くなってしまったけど、その両親、つまり母方の祖父母は健在で、一人っ子だった母親に代わって、俺が祖父母の面倒見るのは当たり前だろ?だから、お前と母さんのせいじゃない。」
「うん。分かってるんだけどさ...『俊介君は優しい子だから』って、母さんが...今でもそう思ってるみたいな節があってさ。」
「分かった。折を見て訪ねてみるよ。菓子でも持ってさ。」
「うん。ありがとう。母さん、父さんが亡くなってから、兄さんのこと余計気がかりみたいでさ。兄さんから訪ねてくれたら、きっと喜ぶよ。」
「ああ。」
「まぁ...菓子じゃなくて、素敵なお相手が一緒なら、もっと喜ぶんだけどね。」
「残念ながら、そんな予定はないよ。さぁ、そろそろ帰れ。今日はもう閉店なんだ。」
「えっ?まだ早くない?」
「もうすぐ本業のお客様がいらっしゃるんだ。」
「そっか。じゃあ、また来るよ!」
「ああ。」
「兄さん!」
「うん?」
「俺さ、小さい頃から兄さんのこと、自慢の兄貴だと思ってるよ!もちろん今でも!」
弟はエヘヘと照れ笑いを残し、店を出て行った。
素敵なお相手なんて...きっと一生連れて行かないだろう。だって俺は...多分人を好きになったことがないから…
それでも何人かと付き合ったことはあるし、そのうちの何人かと肌を重ねたこともある。だけどそれは、全て相手から告白されたからで...何となく付き合って、何となくその流れで肌を重ねただけ。全てが何となくで、そこには愛の欠片もない。そうなったのには理由がある。実母は長く病床に就いていた。実母が何度目かの入院をした時、父と義母は交際を始めた。看病に疲れ果てた父を、元々両親の同僚だった義母が励まし、慰めたのがきっかけだったらしい。二人が交際していることを病床の母は、知っているのに知らないふりをしていた。そして、また義母も、月に一度のお見舞いを欠かさずしてくれた。父とのことを一生懸命隠しながら。そんな二人の間に、父は何食わぬ顔で立っていた。三人の様子を見て、子供ながらに滑稽だなと思った。恋愛や結婚、家庭に対して懐疑的になったのは、この頃だったかもしれない。その後、実母が亡くなり、父と義母は再婚し、まもなく弟が生まれた。義母はとても良い人で、弟も可愛かったが、家庭に対してはますます懐疑的になった。人を愛することもなく、一人で生きていく...今まで生きて不自由だったことも、困ったこともない。だから、これからもそうやって生きていくのだと思っていた。
そう...彼に出逢う30分前のこの時までは...
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