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嫉妬と暴挙と制裁と #7 side Y

冬真は東京で何をしていたのだろうか? 最近はそればかりを考えている。斎藤に会ったことは分かっている。ヤツから連絡があったから。それ以外のことは全て謎だった。聞けばきっと教えてくれるだろう。しかし、自分のしでかした事を考えると、後ろめたさだけが増大し、何となく聞けずじまいでいる。 冬真は変わった。 東京から帰ってから確実に。 決して大きくではないけれど、その変化はきっと...冬真の成長なんだと思う。本来は喜ばしいことなんだ。だけど...俺の知らないところで起きたその変化は、俺を複雑な気持ちにさせていた。 冬真が俺の元に戻った翌日、親父が玄関に荷物を置いていった。 「どうしたの?これ?」 「がざい...」 「画材なのは見れば分かるけど...」 「すいさいから...はじめようかなって...」 塗り絵から始まって、今ではたまにクレヨンで絵を描くようにはなっていたが、筆を持つことはなかった。恐らく手の震えを気にしてのことだと思い、無理に勧めることはしなかった。 いつか...絵筆を持ってくれたらいい。いつもそう考えていた。それが意外に早まって、俺は本当に嬉しかった。 「筆を持つ気になってくれたんだね...うれしいよ!」 「うん...」 「親父に買って貰ったの?」 「ううん...ぼく...かった...」 「えっ?買ったって...だって金は?」 「ぼく...とうきょうで...はたらいた...そのおかねで...がざい...かった...」 東京にいた期間、働いた給料で画材を購入したのだと冬真は言った。冬真の今の状態で、しかも、こんな短期間に雇ってくれるような場所なんてあるのだろうか?いや、あるはずがない。俺にとっては謎だらけだったが、それからというもの、冬真はリハビリの日と土日以外は絵を描くことが多くなり、事件以来、使用していなかったアトリエに籠る日も徐々に増えていった。 冬真がアトリエで絵を描く これは俺の夢 だから...俺はこの謎と複雑な自分の気持ちを奥底にしまい込んだ。 そして今、店の手伝いをする冬真は、ますます俺を複雑にさせている。 土日だけ提供している冬真が作るパンが好評で、パンを求めて来店する新規の客とリピーターが入り交じり、Evergreenはますます繁盛していった。しかし、その一方で冬真目当ての客も当然のごとく増えていた。 左手の薬指にリングをつけた冬真は、今日も可愛らしく、美しく、色気が溢れ落ちるようだった。そんな冬真に女性客はもちろん、男性客の一部も黄色い歓声を上げ、うっとりと彼を見つめる。色めき立つ店内に、俺は静かにため息をついた。不安に陥りそうになった時は、胸元に隠されたリングにそっと触れた。 一人の客が冬真に尋ねる。 「あのぉ...その指輪って...」 「これ...ですか...?」 「はい...」 今までの冬真なら、この時点で俯いてしまい、助け船を出してやらねばならなかった。しかし、そんな心配をよそに冬真は、 「ごそうぞうに...おまかせします...」 と言って微笑んだ。それだけではない。様々な自身のプライバシーを探るような客の問い掛けに対し、 「ひみつです...」 「ごそうぞうに...おまかせします...」 「ありがとう...ございます...」 と切り返し、どう返事をするのかとひやひやする問いに対しては、小さく微笑んでみせた。目の前の状況が信じられず、呆気に取られていた俺に、冬真は微笑む。可愛らしく、美しく、清らかに。 「冬真...お前...」 「ようすけ...ぼく...まちがい...いってない?」 間違ってるどころか...上手い切り返しなのではないだろうか? 「いや...全然。上手な接客で...驚いたよ...本当に...」 「ほんと?」 「ああ。」 「『ごそうぞうに...おまかせします』『ひみつです』『ありがとう...ございます』の3つのことばと...えがおだけで...いいって...ほんとだね...ようすけ...」 「えっ?」 『ご想像にお任せします。』 『秘密です。』 『ありがとうございます。』 3つの言葉と笑顔 確かにそれだけでプライバシーを晒すことも、客に嫌悪感を与えることもなく、その話題を断ち切ることが出来る。 一体誰なんだ?そんなことを教えたのは… 冬真がこんな事、考えることも思い付くはずもない。誰かが入れ知恵したに違いない。冬真が...愛しい冬真が誰かの手によって変えられていく... 俺の複雑な気持ちは、徐々に焦燥感に支配されていく... しかし、3週間後... 冬真に入れ知恵をした張本人に、俺は思いがけず対面ことになる。

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