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嫉妬と暴挙と制裁と #10 side Shun
目の前に立つ、真っ直ぐな瞳を向ける青年は、「自分は愚かな男に見えるか?」と問い掛けた。確かにそう思っていたよ。ここで君に会うまではね...
整った顔立ちの青年だった。彼もまた、冬真さんと同じぐらい客の目を引くに違いない。話をしてみると、彼の友人が言う様に本当に『良いヤツ』だと思った。明るくて、優しくて、何よりも冬真さんへの愛で溢れている。そんな彼が何故、あんなことをしたのだろうか?独占欲から腕の中に入れただけで消えてしまいそうな、美しくも儚いパートナーの体に、尋常じゃない数の愛の花びらを散らし、一方的に抱き潰した。それは愛があるからといって、許されるレベルではない。
考えれば考えるほど分からなくなった。思考が迷宮に入りかけた時、ふと気が付いた。他人の興味が自分に向かうという冬真さんの恐怖は、同時に葉祐さんの恐怖でもあるのだと。
四年前の事故…詳しいことは教えてもらえなかったが、斎藤さんの口ぶりから、その事故は恐らく、事件性をはらんでいるに違いない。なぜなら、それまで森の中でひっそりと暮らしていた冬真さんが、他人の目に晒されたことによって、その事故は起きたと言っていたから。冬真さんが店に出ることによって、他人の興味が注がれ、あの時と同じことが、いつか起きてしまうのではないかという恐怖。もう一度同じようなことが起こったら...儚いパートナーは完全に心を壊してしまうだろう。葉祐さんはそれが何より怖いのだ。だからと言って、家に閉じ込めてしまうのは、冬真さんの社会復帰の道を断つことになり、パートナーの真の幸せには繋がらない。彼は一人、人知れず苦しみ...そして...どんなに思い悩んだだろう。そんなやり場のない思いがある日爆発し、彼は暴挙に出てしまったのだ。彼のしたことは酷い。しかし、これを独占欲や嫉妬心と簡単に片付けてしまうのは、あまりにも不憫だ。
『心のどこかで、あなたを分かりかけているような気がしてなりません。』と
長い沈黙の後、彼はやっと口を開いた。
「藤原さん。」
「はい。」
「今晩はどうするおつもりですか?どちらかにお泊まりですか?それとも...すぐに帰京されるのですか?」
「急いで来たものですから、特に何も決めていません。これから宿でも探そうかと考えています。」
「でしたら...うちに来ませんか?」
「えっ?」
「良かったら、うちに泊まっていってください。冬真に会ってやってください。」
「いや...しかし...それでは...」
「大したもてなしはできません。ですが、あなたは冬真にとって、私を介することなく、自分の手で作った数少ない友達です。あなたと過ごした時間は、きっと有意義だったんだと思います。でも...私のことを気遣って、東京でのことを一切話そうとしません。そんなの...冬真が可哀想です。それに、友達が自分を訪ねてくれる...冬真にはほとんどない経験です。そんな経験をさせてあげたい...」
「......」
「それに...私は今、あなたという人をもう少し知りたい...そう思っています。」
時折、ぽつりぽつりと語られる彼の言葉は、予想外のものばかりで正直驚いた。言葉も出ない。
ああ...彼はまた複雑なものを背負おうとしているのかもしれない。冬真さんのために。もしかしたら...俺のため?いや...それはないだろう。こんな短時間で気が付くはずがない。そんなヘマはしていないはずだ。
なかなか答えを出さない俺の肩を、彼はポンと叩き、
「さぁ、行きましょう!悩んでるのなら嫌じゃないのでしょう?今晩は冬真が晩メシを作ってくれているんです。東京から戻ってから、ちょっとだけやってみようという、積極的な気持ちが芽生えました。料理もそのうちの1つで、週に一度だけ晩メシを作ってもらってます。だから...一緒に食べてやってください。」
微笑みながらそう言った。
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