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変化 #2 side Y
「ジェラート...です...か?」
冬真が退院して3週間ほどが経過した日曜日の閉店後、俊介さんと二人、店の片付けをしながら談笑していた。その時、突然切り出された俊介さんの言葉に、俺はやっと言葉を吐き出した。
「ええ。K町のショッピングモールのそばに食をメインにした施設があるのですが、葉祐さん、ご存知ですか?」
「話には聞いたことがあります。結構新しくて、綺麗なところですよね?すぐそばに日帰りの温泉施設が併設されている...でも、行ったことはありません。」
「森の中に平屋建ての建物が何棟かあって、それらが全てウッドデッキで繋がっていて、レストランやカフェなんかが入ってるんです。その中に、地元の牧場主の方が経営されているジェラート屋があって、美味しいと評判らしいですよ。同じ施設に天然酵母を使用したベーカリーもあるらしいんです。冬真さん、喜びそうですよね?スイーツもお好きですし、パンにもかなり興味を示すでしょうから、お二人でドライブがてら、お出掛けになられてはいかがですか?」
「俊介さん...」
「はい。」
「わざわざ調べてくださったのですか?」
「えっ...?ええ...まぁ...」
「ありがとうございます。でも...」
「何か不都合でも?」
「いや、不都合ってワケじゃないんですけど...アイスクリームは俺達にとって、あまり良い思い出がないんです。子供の頃、別れの前日に食べたんです。もちろん、再会してから何回か食べましたけど、今の冬真にそれが理解出来るかどうか...」
「そうですね...それは差し出がましい真似をしました。申し訳ありません。」
「いえ。俊介さん......変わりましたね...」
「私が...ですか?」
「ええ。以前は人とはあまり関わらないようにしていたのでしょう?それなのに、ここまで色々調べてくれるなんて...まぁ、冬真のためだから出来るのでしょうけど...」
「あなたのためでも調べますよ。見くびらないでください。」
「すみません。じゃあ...3人で行きましょう!」
「いえ。私は...」
「冬真のためにも是非そうしてください。あなたがいれば、アイスクリームに対して良い思い出が出来るでしょう?」
「しかし...」
「それに、俺のためでもあります。」
「葉祐さんの?」
「はい。もし、出先で冬真の自傷行為が始まったら...俺一人ではどうにも。俊介さんがいてくれたら俺...本当に助かるんですけど...」
退院後、冬真は徐々に調子を取り戻しつつあった。それでも時折、意識がはっきりしないことがあり、そんな時は決まって自傷行為をした。腕を爪立てるように掴み、苦しそうに早い呼吸を繰り返し、そして...意識を失う。自傷行為が始まると、俺達に出来ることは、意識を失うまで耳元で『大丈夫...大丈夫...』と繰り返しながら抱きしめてやることだけだった。それでも、自傷ならまだ良い方で、時には近くにいる人の腕を掴んでしまう時もあり、俺の時もあれば、俊介さんの時もあった。それを冬真が知った時、冬真は鬱ぎ込み、食事を拒み、ほとんどの時間をベッドで過ごした。そうなると俺には、ほぼお手上げ状態で、それを救ってくれるのは、いつも俊介さんだった。俊介さんがお見舞いがてら持参してくれる写真集や画集、俊介さんのデザイン画の話を冬真に向けると、冬真は徐々にこちらを意識し、最終的にはベッドから起き上がった。
「分かりました。お付き合いします。せっかくのデートにお邪魔でしょうけれど...」
俊介さんは、ぶっきらぼうにそう言った。本人は気付いていないけれど、俊介さんは照れた時やちょっと嬉しい時、普段よりも若干、ぶっきらぼうな物言いをする。最近、その頻度が多くなっていた。家庭に恵まれず、今まで他人に心を許さなかった彼が、俺と冬真だけは受け入れてると思うと、そのぶっきらぼうな物言いも、随分と可愛らしく感じられ、思わず顔が綻んだ。
「じゃあ、次の定休日に。」
そう言うと、
「せっかくですから、マルシェの時間もチェックしておきましょう。冬真さんの五感の刺激になるかもしれないですしね。」
俊介さんはまた、ぶっきらぼうにそう言った。
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