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謝罪 #1 side T
葉祐に言われて僕は一人、車寄せの待合室で彼を待った。一人で外にいることは、本当は不安だったけど、葉祐の負担になりたくない僕はそれを了承した。
大丈夫...大丈夫...
葉祐はすぐに来る...
大丈夫...大丈夫...
心の中で何度も何度も夢中で繰り返した。すぐそばに人が立っていたことにも、全く気が付かないほどに。その人が突然声を荒げたことで、僕はやっとその存在に気が付いた。
「無視すんじゃねーよ!」
えっ?
僕は驚いてその人を見上げた。
「...ったくぅ...人がさっきから何度も何度も聞いてるのに!ところで、あんた、岩崎?」
誰?何で…僕の名前...知ってるの?
大学生?いや...高校生ぐらいかな...まだ少年の雰囲気が残ってる。
でも...髪...金髪......
そういう知り合い...いたかな…
ずっと考えるけど...やっぱりわからない...
「だからさ、返事ぐらいしろよ!あんた、岩崎っていう人?」
今日は喉に石があるような気がして思うように話せないから、僕は頷いてみせた。
「やっぱり?スゲー!スゲーよ!あんたに会えるなんて俺、超ツイてる!神様は俺の味方だな!あのさ、俺の......」
なぜだか分からないけど、彼はとても喜んでいた。だけど、彼の話し方はとても早くて...僕が理解できたのはここまで。そこから彼の声は、もうただの音に変わってしまったんだ...
何を言ってるの?
早くて唇も読めない…
どうしよう...どうしよう...
葉祐...
どうしたら良いのか分からなくて...僕は俯くしか出来なかった。ほどなく右腕を掴まれた。強い力で引っ張るから、この人はきっと、僕をここから連れ出そうとしているのだと気が付いた。
このままついて行ったら...
きっとあの時と...
同じ様なことが起こるかもしれない...
僕は咄嗟に反対側の手でベンチの縁を掴み、ここから出ていくことを拒んだ。
「何だよ~ちょっとだけで良いって言ってるだろ?頼むよ!」
彼は更にグイグイ引っ張った。
手が痛い...もう...限界...
助けて…葉祐...
「おい!何をしている!その腕を離せ!」
葉祐が待合室に飛び込んで来て、すぐに少年の手を振り払った。それから葉祐は、僕を引き寄せ、僕の体はすっぽりと葉祐の腕に包まれた。
「大丈夫か?冬真?」
うん...大丈夫...
そう教えなくちゃ...
あれ...体が...震えてしまって...何も出来ない...
息も...少し...苦しい......
体の震えは徐々に大きくなって...もう立っていられなくて...葉祐の体からすり抜けそうになった。
「あぶね!」
葉祐は床に座り、横抱きにされた僕は、今度は葉祐の胡座の中にすっぽりと収まった。意識が徐々に朦朧としていって...体の震えも更に大きくなって...
それから、葉祐が少年に何か言ったんだ。
とても大きな声で。あぁ怒鳴ってるんだ...
初めて見た…葉祐でも怒鳴ることあるんだね...
そして、少年が待合室のエマージェンシーコールを押して...とても心配そうに...僕を見つめていたんだ...
大丈夫...そんなに心配しないで...
君はきっと...良い子なんだね...
君の話を最後まで聞いてあげられれば良かったんだよね...ごめんね...
そうすれば...君は...葉祐に怒られなくて済んだのに...
リハビリが始まったら...ヒアリング...頑張るから...
警備員さんと看護師さんがやって来て、看護師さんが僕を見て...どこかへ連絡を入れた。それからすぐ...医師と別の看護師さんがやって来たんだ...
「岩崎さん?大丈夫?」
医師の言葉に返したいけど...体が...声が...思うように出ない...
「先生!」
葉祐が何か叫んだ。
葉祐...心配させちゃって...ごめんね...
「大丈夫。岩崎さん?ごめんね。ちょっとチクってするよ。」
僕の左腕に注射針の先端が当てられるのが見えた。
あぁ…僕は少し眠らなくちゃなんだね...
葉祐...ごめんね...デート...行けないみたい...
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