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珍しい光景 #1 side S ~Sayaka Iwashiro~

帰宅の途に就こうと、フラフラの体と思考能力ほぼゼロの頭を駆使して、タクシーを拾うべく、やっと院内の車寄せまでたどり着くと、待合室がいつもより騒々しい。 「...ったく...うるさいな。こっちは夜勤明けのからの残業で、心身共に疲労困憊なんだよ。」 振り返ればストレチャーが一台、待合室から出ていくところだった。 急病人か···大事に至らないと良いけど... 働かない頭でおぼろ気に考えていた。しかし、ストレチャーに乗せられた人を見て、状況が一変する。 「えっ?岩崎?」 ストレチャーから待合室に視線を移すと、そこには金髪の少年、よく知る内科医、友人、警備員となかなか不思議なメンツが揃っていた。しかも友人は珍しく激昂し、警備員に羽交い締めされいた。内科医は少年を庇うように二人の間に入っている。 「海野!」 「岩代さん!」 「あほっ!落ち着け!」 待合室に入った私を見て、海野がやっと冷静さを取り戻し、警備員の腕を振り払った。 「岩代さん、どうして?あぁ、岩代さんは岩崎さんのご学友でしたね?」 仕事でお世話になることが多いこの内科医は、私と海野の関係を疑問に感じた様だったが、その疑念が一瞬で解けて、すぐにいつもの優しい笑顔を向けてくれた。 「奥野先生、どうされたんですか?今、岩崎がストレチャーで運ばれた様ですが···まさか、心臓の発作でしょうか?」 「いや、大丈夫。大したことはないよ。ただ、ちょっとビックリし過ぎたみたいでね。」 「そうですか。このアホがご迷惑をお掛けしたみたいで、大変申し訳ありません。」 「いやいや。私もこれから事情を聞くところなんだ。」 「先生、よろしければ私も同席させて頂けないでしょうか?」 「ええ、私は構いませんよ。しかし...」 奥野先生は気の毒そうに海野を見る。 「先生のお心遣いには、いつも頭が下がる思いです。本当にありがとうございます。ですが···今回、このアホに権利はありません。大丈夫です。どうかお気になさらず。さっ、行きましょう。」 「相変わらず辛辣だね~岩代さんは。」 内科医はそう言って、白髪混じりの頭をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべた。

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