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事情 #1 side W~Wataru Kakiuchi~

「ほらっ!航(わたる)君見て!そこに立っている人が、前に話した岩崎先生。素敵でしょ?」 一つ年下の幼なじみが指す方向を見てみると、そこには一人の男の人がいた。 ちぇっ!何だよ。こんなイケメン...いや、こんな美人…俺に勝ち目なんて全然ないじゃん... 「泉ちゃんはさ、ああいう男がタイプなわけ?泉ちゃんがイケメン好きなんて知らなかったよ。俺。」 「ちっ、違うよ!そんなんじゃないよ!航君、変なこと言わないで!」 そんな真っ赤な顔して言われても...全然説得力ないもんね... 「岩崎先生はね...私の...ううん...きっと、ここにいる皆の希望なの。」 「希望?」 「うん。航君には多分...分からないと思う。ああ、ごめんね。悪い意味で言ってるワケじゃないからね。」 あの時そう言って、少し寂しそうに笑った泉ちゃんの横顔が...今でも脳裏からずっと離れないんだ... 連れてこられたのは、病院の面談室っていうところで、俺に突っかかろうとしたイケメンの兄ちゃんと何だかよく分からないけど、途中から加わった口の悪いおばさんが俺の前に座り、白衣を着たおじさん先生が俺達の間に座った。 「まずは君の名前を教えてくれないかな?」 おじさん先生がそう言った。 「垣内航(かきうちわたる)。」 「航君ね。何歳?」 「16。」 「16歳だと高校生だね。学校はどうしたの?」 「......」 「ああ、ごめん。言いたくなければ言わなくて良いよ。」 「辞めた。先月。」 「ありがとう、教えてくれて。ところで、ここへは何しに来たの?」 「見舞い。幼なじみの。」 「そう。岩崎さんと君は知り合い?」 「ううん。」 「君は岩崎さんをどうしようとしたの?」 「コイツは冬真をどこかへ連れ出そうとしていたんだ!何が目的だ!冬真をどうしようとしたんだ!」 イケメン兄ちゃんが叫んだ。そして、兄ちゃんは...おばさんに頭を叩かれた。 「まぁまぁ...」 おじさん先生が二人を宥めた。 何だよ...オーバーなんだよ。皆して... 確かに美人先生を驚かせたのは悪かったけどさ。あんな風になるなんて...思っても見なかったんだから...仕方ないだろ... 「俺はただ...」 「うん?」 「泉ちゃんに会わせてやりたくて...」 「泉ちゃん?誰?」 「さっき話した、見舞いに行った俺の幼なじみ。ここの病院にずっと入院してて、日中は院内学級で勉強してる。」 「そうなんだ。泉ちゃんに頼まれたの?岩崎さん連れて来てって。」 「違う!」 「だったら...どうして?」 「少し前だけど...泉ちゃんが言ったんだ。岩崎っていう人は泉ちゃんの希望だって。だけど最近、院内学級に来なくなったって。泉ちゃん、スゲー悲しそうだった。どうにかして会わせてやりたいって考えてたところに、岩崎っていう人が、偶然待合室にいて…でもさ、俺、ちゃんと事情も説明したし、院内学級に行ってくれる様にきちんと頼んだよ!なのに岩崎っていう人、下ばかり見て、何も言ってくれなくて...だから...」 「先生...」 おばさんが悲しそうにおじさん先生を見た。 「ああ...」 おじさん先生は兄ちゃんを見た。兄ちゃんは言葉をなくしている様に見えた。 「海野さん。」 「はい...」 「この子はなかなか友達想いのとても良い子の様だ。今回、事件性はない。偶然が重なってしまって起きた不幸な事故だと私は思う。君はどう思う?」 「私もそう...思います...」 「少しだけ...彼に事情を説明してやっても良いだろうか?」 「先生...」 「大丈夫。悪いようにはしないよ。彼も君と似たような境遇にいる。また、泉ちゃんと岩崎さんも似たような境遇だ。だからこそ、事情を話してやらないといけないんじゃないかと思えてならない。どうか私を信じてくれないか?」 「分かりました。先生にお任せします。」 「どうもありがとう。ねぇ、航君。」 「うん?」 「岩崎さんがどうして、君にあんな態度を取ったのか、今から事情を説明するね。だけど、その前に...岩崎さん自身のことを話さないといけないんだ。プライバシーに関わることだから、全ては話せないけど、聞いてくれる?」 おじさん先生はそう言って、組んだ手をゆっくりと机の上に置いた。

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