232 / 258

大胆な人 #2 side Y

「わたくん...よかったね...もう...ようすけに...しかられない...」 冬真は自身の両手で航の両手を取り、ぶるぶると少し揺らし、嬉しそうに微笑んだ。 こういうことを 何度も経験している俺と 幾度か経験している俊介さん 並んで立っていた俺と俊介さんは、静かにゆっくりと目を合わせ、そして、どちらともなく、恐らく同時に吹き出した。 「なっ、何?」 ひきつった表情のままの航が、少し乱暴ぎみに問う。だけど、俺と俊介さんはお構い無しに笑う。 いつでも冷静で、笑うとしても微笑程度の俊介さんが、肩を揺らしてスゲー笑っていた。 あぁ...何か良いな…こういうの。 何か...嬉しい そう...これは冬真の本質。冬真の本当の姿。 複雑なものを一切背負わなかったら... 彼はきっと毎日こんな可愛い姿を見せて... 俺達を笑顔にさせていたんだろうな... たまにひょっこりと顔を出す... 天然冬真さんのお出まし。 10日ほど前のこと。その頃、冬真はとても調子が悪く、声が出ない日々が続いていた。その日の閉店間際、航が突然、店に顔を出した。 「いらっしゃいま...おうっ!」 「こんちは。何?今日はもう店じまいなの?」 「まあね。」 「手伝おうか?」 「良いのか?」 「うん。だって何か用があるんだろ?そうじゃなきゃ、こんな早く店じまいなんてしないだろうからさ。」 「悪いな。用事ってワケじゃないんだけど...冬真の調子が悪いんだ。」 「えっ?心臓?」 「いや。ここ2~3日言葉が出ない。ちょっと苦しそうで...今日ぐらい早く帰ってやろうかと思ってさ。」 「俺...見舞いに行っても良い?」 「そうだなぁ...航の顔見たら元気になるかもしれないな。分かった!良いけど、冬真がツラそうだったら帰れよ。」 「うん。」 「よし!じゃあ、早いとこ片付けちゃおうぜ!」 「ねぇ?葉祐?」 「うん?」 「俺...何か出来ることあるかな?冬真のために。」 「そうだなぁ...まぁ色々あるけど...家で話すよ。まずは、ここ片付けて早く帰ってやることだな。」 「そうだね。」 それから俺達は、黙々と手を動かし、家路へと急いだ。

ともだちにシェアしよう!