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大胆な人 #2 side Y
「わたくん...よかったね...もう...ようすけに...しかられない...」
冬真は自身の両手で航の両手を取り、ぶるぶると少し揺らし、嬉しそうに微笑んだ。
こういうことを
何度も経験している俺と
幾度か経験している俊介さん
並んで立っていた俺と俊介さんは、静かにゆっくりと目を合わせ、そして、どちらともなく、恐らく同時に吹き出した。
「なっ、何?」
ひきつった表情のままの航が、少し乱暴ぎみに問う。だけど、俺と俊介さんはお構い無しに笑う。
いつでも冷静で、笑うとしても微笑程度の俊介さんが、肩を揺らしてスゲー笑っていた。
あぁ...何か良いな…こういうの。
何か...嬉しい
そう...これは冬真の本質。冬真の本当の姿。
複雑なものを一切背負わなかったら...
彼はきっと毎日こんな可愛い姿を見せて...
俺達を笑顔にさせていたんだろうな...
たまにひょっこりと顔を出す...
天然冬真さんのお出まし。
10日ほど前のこと。その頃、冬真はとても調子が悪く、声が出ない日々が続いていた。その日の閉店間際、航が突然、店に顔を出した。
「いらっしゃいま...おうっ!」
「こんちは。何?今日はもう店じまいなの?」
「まあね。」
「手伝おうか?」
「良いのか?」
「うん。だって何か用があるんだろ?そうじゃなきゃ、こんな早く店じまいなんてしないだろうからさ。」
「悪いな。用事ってワケじゃないんだけど...冬真の調子が悪いんだ。」
「えっ?心臓?」
「いや。ここ2~3日言葉が出ない。ちょっと苦しそうで...今日ぐらい早く帰ってやろうかと思ってさ。」
「俺...見舞いに行っても良い?」
「そうだなぁ...航の顔見たら元気になるかもしれないな。分かった!良いけど、冬真がツラそうだったら帰れよ。」
「うん。」
「よし!じゃあ、早いとこ片付けちゃおうぜ!」
「ねぇ?葉祐?」
「うん?」
「俺...何か出来ることあるかな?冬真のために。」
「そうだなぁ...まぁ色々あるけど...家で話すよ。まずは、ここ片付けて早く帰ってやることだな。」
「そうだね。」
それから俺達は、黙々と手を動かし、家路へと急いだ。
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