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対立 #2 side Y

急いで帰宅し、リビングに入ると、冬真は俊介さんとソファーに並んで座り、画集を眺めていた。その様子は本当に絵になって、楽しそうで、ちょっと複雑。そんな俺の気持ちを見透かしたのか、心を癒してくれるかのように、俺が大好きな美しい笑顔を冬真は向けてくれた。 「ただいま~」 「お帰りなさい。お早いお帰りでしたね。」 「ええ。今日は来客がありまして...」 そう言ったところで航が俺の背中から、ひょっこり顔を出した。 「ども。」 ペコリと頭を下げた後、 「とうま~」 航は冬真をぎゅと抱きしめ、その後、少し体を離し、二人は見つめ合う。 「冬真、大丈夫?ツラい?」 冬真は首を横に振り、唇を動かす。 「えっ?何?」 「『わた君が来て嬉しい。』ってさ。」 「ホントに?」 頷く冬真に、航は再度抱きついた。 「俺、冬真が元気になるんだったら、何でもするからね!それにしても、冬真っていい匂いがするね。俺、ずっとこうしていたい。」 クンクンと鼻を鳴らしながら言う航を、俺は強引に引き離す。 「まずは、冬真から離れろ!」 「ちぇっ。何だよ!」 「重いだろ!それからお前さ、その髪いい加減どうにかしろよ。」 「へっ?どうにかって?」 「元に戻して来い。」 「えー。この前染めたばかりだぜ?髪の毛痛んじゃうよ。」 「そんな問題じゃなくて、お前はまだ子供だ。成人しているならともかく、未成年でその金髪は不自然だ。泉ちゃんのご両親だって、可愛い娘の前に、そんな男がうろうろしていたら不快に思うだろうし...」 「何?それ!葉祐は外見で人を見るのかよ!」 「そうじゃない!結局、その外見で損をしているのはお前なんだぞ!バイトの面接だって、結構苦労したんだろ?」 「それはさ...」 「受験だって控えているんだ。」 「何かつまんね!葉祐もそこら辺の大人と全然変わんないんだな。もっと理解のある人だと思ってたけど、ガッカリした。あ~あ。」 「お前な!」 「何だよ!うるせー!親でもないくせに!」 「航!」 「お二人とも!」 互いにヒートアップし、いつしか言い争いに発展していた俺達の間に、俊介さんが制する様にピシャリと言った。俊介さんを見ると、達を睨み付け、左手で冬真の手を握り、右手で冬真の背中を擦っていた。そして冬真は小刻みに震え、泣いていた。 「大丈夫。大丈夫ですよ。ただの意見の食い違いです。喧嘩ではありません。でも、悲しかったんですね。分かりますよ。大丈夫です。さぁ、立ちましょう。立てますか?」 項垂れるように冬真は立ち上がり、そして、更に項垂れるように、フラフラと全く覇気がないように歩く。目すら合わせてもくれない。リビングを出る際、俊介さんは振り返り、 「冬真さんは今晩、孝祐さんのお宅でお世話になることにします。今から孝祐さんのお宅に行ってきますが、帰って来たらお二人にお話があります。それまで、互いに自分のことを考えておいてください。」 そう言い放って出て行った。 しばらくして、俊介さんが親父の家から戻ると、長い長い説教が始まった。 そこで俺達はあの時、冬真が自傷行為に及ぼうとしていたことを聞かされた。冬真の自傷行為の事を初めて知った航は、すっかり言葉を失っていた。 そう...これが10日ほど前の出来事。

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