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9.A spasm(発作)

帰りの車の中。ホテルを出ると小雨が降り出していた。 「今回は早く終わったな」 前回の様に強奪屋が強襲してくることもあれば、今回の様に何事もなく簡単に終わることもある。 押し黙ったまま窓の向こうの景色を眺めるテルに、同じくフロントガラスを拭うワイパーを見ながら白島は話しかけるが、独り言で終わる。 先程からテルの様子がおかしいのは明らかだ。しかし無理に話を促すのは逆効果だと、この数日間で学んでいる。 暫く走行し、信号が赤に変わると車はゆるやかに止まった。 突然、助手席に座る影がもぞりと動いた。 「っ」 空気のつっかえるような音。なんだ?と今まで大人しく座っていたはずのテルに視線を移せば、彼は前屈みになり胸を押え苦しんでいる所だった。 「おい?」 「っ……っ、」 返答が無い。少年は全身を小刻みに痙攣させ片手で胸元を強く握りながら、もう片方の手でポンチョの下を探っている。 急な異変に白島は戸惑いテルに気を取られていると後方からクラクションが鳴った。信号は青に変わっている。 ひとまず車を発進させ大通りから小道へ入り、一旦脇へ停めた。 少年はどこからかピルケースを取り出し、手のひらに薬らしきものを2、3個転がしそのまま口に入れた。肩を震わせながら飲み込む。車内は暗くハッキリとは確認できないが、そのような行動をしていたことは間違いない。 「おい、大丈夫か?」 白島は急いで車を降り、雨の中自販機を探しに行った。 水を買って戻ってきた頃には少年は先ほどより大分落ち着いていたが、呼吸は荒いままだ。車内灯をつけ、キャップをひねりペットボトルを差し出す。 テルはそれを受け取ると、水を一気に飲み始めた。ある程度程飲んだところで蓋を閉め、そのままパタリと背もたれへ倒れる。その額には汗が滲み、肌は土気色をしている。 目を閉じ息を整えるテルに一先ず安堵をした。 「お前…病気なのか?なんなら医者の所に連れていくぞ?」 その言葉にテルは気怠げに首を振る。余計な事はしないでくれ、と言いたげな表情だ。 彼が薬を飲んでいるところを見るのは初めてで、ピルケースを持ち合わせているということは、何か持病でも患っているのか?と白島は眉を潜めた。先程の苦しみ方は尋常ではない。 しかし、今の状態では問いただすのは酷だろうと判断する。 ようやく少年が落ち着きを取り戻したところで車のエンジンをかけた。 先程より雨脚は強まっていた。 このまま連れて帰ってもいいのか悩む所だが、病院に行けば本人が嫌がることは間違いない。いざとなったら拘束してでも連行するか、と白島は自己完結しテルに問いかける。 「晩飯食えるか?何が食いたい」 その提案にテルは小さく唸ってから声を絞り出した。 「…オムレツ」 「…はいよ」 2人が乗った車は再び大通りへと引き返した。

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