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13.Who is he?(あいつは誰だ?)

「すみません…」 バーのマスターは眉を下げながらグラスにジンを注ぐのをやめ、トニックウォーターの入ったボトルを手に取る。それをロンググラスに満たしジンと混ぜ合わせるとカットしたライムを飾りカウンターの上へ、苦情を言いにきた客へ捧げる。 受け取ってライムをグラスの中に沈めた男は口をつけて喉を潤す。そして謝罪するバーテンダーに首を振った。 「謝らないでくれよ。悪いのはあいつだ…」 一昨日のボディーチェックの一件を桜野に話していた。どうにも不審に思い、彼に依頼を受けた経緯を尋ねると、本来聞かされていた仕事の内容と実際に行われた内容が異なっている事が判明した。 このようなケースはさほど珍しくはないが、多くの運び屋は手違いやアクシデントを減らす為に信用のおける仲介屋に仕事の窓口を頼んでいる。 「しかもアイツはESPだった。触るだけで身体の状態がわかるっていう…」 「ほう…」 あの憎たらしいブロンドと厭らしい手つきを身体が思い出しゾッと肩が竦んだ。悟られないように咳払いをしてジントニックを一気飲みする。 「で、触らせたんですか?」 「…………。」 「お人好しすぎますよ」 呆れた、と渋まる桜野に「脅されて仕方なく」とは言えず。 「…マフィアの仲間に、ですか」 これまでの話からどこか引っかかる、と言った様子で反芻する声に「どうした?」と先を促す。 桜野はゆっくりとカウンターに肘をつき前屈みになると向かい側へ座る相手に顔を近づけ声量を落とした。 「以前のパーティでの依頼は確かにイタリア系米国マフィア、ネーロ一家が絡んでいました。今回の依頼で一家のスカウトマンだと名乗ったようですが…」 「ああ」 「ですが件の依頼人は個人名義でした。おかしいとは思いませんか?」 「…何?」 意図が分からない。聞き返すと仲介屋は体を起こし両腕を組んだ。 「ボスが直々にあなたを勧誘したかったのであれば、一家の名義を使うはずです。元々コーサノストラは血の繋がりと掟を重んじる組織ですので白島さんに一目惚れをしたからといって軽々しく仲介屋に頼み、間接的な交渉などしません。つまりスカウトマンが単独行動をしていると言う事です。何か事情があるのかもしれませんが、私には組織からの交渉とは到底思えないのです」 「なら、アイツの個人的な興味で勧誘しに来た?もしくは断られるのを承知で実際は俺のデータ収集が目的か…?」 「その可能性が高いでしょう。男が本当に一家の人間かどうかさえ疑わしい」 この推測には納得がいった。マフィアの事情に詳しくは無いが、あのブランクという男は最初からどうも胡散臭かった。 舌打ちをして胸ポケットからシガレットケースを取り出すと一本咥える。 「畜生、テルがいなければマジで連れ去られる所だった…」 「気をつけてくださいよ。頼みますから…」 「わかってる…」 神妙な面持ちで念を押す桜野に頷くと煙草に火をつけた。 「やはりあの場で殺しておくべきだった」 突如、割って入った第三者の声に二人は驚いて顔を上げた。白島は誤って煙を大量に吸い込んでしまい軽くむせる。振り返ればいつの間にやら入店していた少年が影のように相方の座る椅子と背中合わせにして立っていた。 「お、お前いつの間に…」 「いらっしゃいませ…!」 桜野は飲み物を勧めるが、テルは首を振った。 彼は小さな体格故か気配を消すのが本当にうまく、同じ部屋に住んでいても仕事以外ほとんど別行動なので普段はどこで何をしているのか白島には見当がつかない。 少年はかぶっていたフードを取り猫のような真っ黒い瞳を彼らへ向ける。意思のこもった目つきだ。 「あいつは、また会うと言っていた」 次こそ殺れ、と遠回しに言っているようだ。 手を下すかは別として、危険を回避する為にもあのスカウトマンの素性を明かさなくてはならない。大きく溜息をついた白島に桜野は遠慮がちにベストの内ポケットから茶封筒を取り出して見せる。 「どうします?次の依頼、きてますけど…」 苦々しく煙草を灰皿へ押し付けると運び屋は躊躇いながらも封筒を受け取った。 「…やるよ…」

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