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15.ASHIBA(アシバ)

「クッ…!」 アシバを押し切った白島に代わるようにテルが目標の背後から乱射する。 まるでウサギのように飛び跳ね高い跳躍力で銃弾をよけた男は伸ばした鎌を天上に張り巡らされた枝管に引っ掛け飛び上がり、身軽さでテルを翻弄する。これには少年も悪態をついた。テルの腕前を知っている白島も眉根を寄せる。 「あいつ…!」 「フハァ!どこ見て狙ってんだァ?」 テルは柱の後ろへ逃げると回り込み、白島と前後で挟み撃ちにする。刀と銃が同時に向けられた時、アシバは臆する事無くその場に屈むと白島の脚の間に片足を滑り込ませ薙ぎ払い、そして鎌を下方から切り上げる。 白島はバランスを崩しかけるも蹴られた左足で着地し重心を移動すると鞘で鎌を阻む。防ぎきれなかったニ撃目がスーツのジャケットの裾を引き裂いた。 その間にテルは素早く動く男を狙い、彼が避ける先の先を見越して撃つ。一発目の誘導射撃に気づいたアシバが振り向きざまにニヤリと笑んだ。 次いで放った弾は寸前で居場所の入れ替わった白島の肩と太腿を掠った。 「ッ!」 「しろ…っ」 「大丈夫だ!気にすんな!」 「ハハァッこんなもんかよォ」 慌てたテルを叱咤するように白島は声を上げる。 首を傾げ挑発するピンクの頭を狙い刀を振りながら膝蹴りを仕掛けるが、その足技さえ予測され受け流される。 白島は後退してテルと同じ場所までアシバから距離を取った。 「くそ、全然当たらねえな…」 二人同時を相手に一切隙を見せないアシバに運び屋達は苦戦を強いられていた。身体能力が優れている上に、先程は気づかない程の速さでテルの対角線上に誘導された。空間認識力も高い。 白島の中でとある疑問が確信に変わった。 「さてはお前…、」 アシバの動きが止まる。 「ようやくお気づきかァ?」 隠していた手札がバレてつまらないといった顔で投げやりに答えた。 「俺の能力は瞬間危険予知だァ。範囲は自己限定…自分に対する物理的干渉なら全て察知し予測できる。だからテメェらの攻撃は当たんねえ…それより速く回避できるからなァ!」 「…!」 ESPという能力者の存在自体が稀少である為に、立て続けに遭遇する事に訝しむ。これは偶然では無い。 ブランクの様な計測能力はともかく、アシバの様に戦闘と相性の良い能力はまともに戦うと、此方の分がわるい。この場から逃げ出す事は難しく、どうにか乗り切る方法を模索する。 白島は一度テルに目配せをした後にアシバへ話しかけた。 「オイ、その赤猫っていうのは」 「アアン?」 「ESPの集団か?なら、俺はそこに迎えられる理由が無いと思うんだが」 「ハハハハハハ!!!そんな事ァ知らねえよ、オレは命令を果たすだけさァ!!!」 笑う相手へ間合いを詰め柄に手をかける。居合いの動きを予知し、刀を抜くと思ったアシバは迅速に後ろへ跳ねて後退した。そして眉を顰める。 「……ハッタリかァ?」 攻撃を仕掛ける前に刀の届かない距離へ躱され、白島は仕方なく立ち止まった。 「お前、俺たちの身体の瞬間的な予備動作から計算して予測してるんじゃない。『直感的』に攻撃を予知してるな?」 「フン…今のでそれが分かったのかァ?だったらどーする」 「知ったからには勝機が見えるぜ」 「やってみろよォ!!」 言い切った男に向かって今度はアシバが走り出した。白島は後退し距離を保つために逃げる。 「ぁあ?」 背を見せ今迄とはらしからぬ動きに訝しむも、アシバは左手の鎌を投げた。 弧を描き回転しながら襲いくるそれを白島は鞘で払うとワイヤー部分を掴んで思い切り引っ張った。ワイヤーは持ち主のベルトのリールへと繋がっている。二人の間にピン、と一本の糸が張った。 「…オレを捕まえたつもりかァ…?」 アシバはリールのスイッチを入れてワイヤーを巻き取り始め、その力に合わせて再び一気に駆け込む。しかし、白島は手を離さない。距離が縮まり首に刃があてがわれた。 「…テメェを殺しちゃいけねェが、多少は痛めつけてもいいそうだぜェ?」 「……」 隙だらけの白島の皮膚を舐めるように切っ先がくるりと表面を滑り首輪の様に細く赤い線が滲んだ。 背後から殺気を感じたアシバは振り向きながら血の不着した鎌で空を切り払う。 「よめるっつってんだろ!」 後から狙っていたテルは飛び退くと宙返りでバランスを取って着地する。 アシバは捕らわれた方のワイヤーを切断し、鎌を見捨てて離れようとしたが、逃すまいと白島は攻撃を繰り出す。アシバによって振りかざされたもう片方の鎌をワザと防がなかった。 刃が左肩に突き刺ささる。 「…うぐぁッ…!」 「何!?」 避けると確信していたアシバは相手が抵抗しなかったことに少なからず動揺した。傷口から刃を引き抜こうとするが、血が溢れてくるのも構わずそのワイヤーを白島が掴んで離さない。既に千切れた方の鎌は遠くへ投げ捨てる。 その動きでようやく意図を理解したアシバはここで始めて危機感に表情を歪ませた。 「テメェ!!!!」 「…、…いくら予知できようが、…逃げられなきゃ、意味ねぇだろ…?」

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