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16.Nice timing(ピッタリだ)
アシバは離れようと必死に白島の体を蹴り上げて抵抗した。衝撃で肩から鎌が抜けるが、すぐさま態勢を立て直してワイヤーを自ら腕に巻きつけ、力任せに引き寄せていく。ワイヤーはベルトの装置に繋がれているせいで短くなる程身動きが取れない。こうなればもはや力比べである。
(――ありえねェ!これだけ血を流しておいてこの体力かよ!!)
止む無しか、とアシバがベルトに手をかけた時、頭上から命の危険を知らせる気配。回避しようとする服を白島が掴む。
「捕まえたぜ…」
呟くより早く、アシバのこめかみを二つの銃口が捉える。
「!?」
(――避けきれねェ…!)
白島に捕まってから常に意識していたはずのもう一つの気配。しかし、着実に殺気を漏らさず忍び寄っていたテルの動きはアシバの予測を上回った。
トリガーの引かれた銃が着弾するまで0.013秒。逃げ切るより速く弾は男の脳を貫いた。
銃声が広い地下空間に轟き、膝をついた男は目を見開いたままドサリと地面へ倒れ力尽きた。桃色の髪の下から赤黒い血溜まりが溢れ出す。
アシバが息絶えたのを確認すると白島は脱力してワイヤーを解き左肩を庇った。慌てて駆け寄って来た険しい表情のテルに笑いかける。
「ナイスタイミングだ…テル…」
「白島…!怪我は」
「大丈夫、大したことねえよ」
どうやら出血は既に止まっているようだが、身体はボロボロだ。けれどゆっくりはしていられないと、白島は依頼人達の亡骸の方へ歩き出す。
アシバの死体に視線を投げ少年は眉根を寄せた。
「…何故分かった?」
「ん?」
「この男の予知手段を」
「ああ…。あの時、居合斬りを仕掛けようとした時、」
小さく息を吐いて続ける。白島はテルと同じ方向を見つめた。
「アイツは鎌で防ごうとせずに後ろへ下がった。もし身体動作から瞬間予知をしていたのなら刀が抜けないことも察知できたはずだ。それだったら避ける必要がないだろ?
でも実際はそこまで分からなかった。視覚情報で刀が抜けると思い込んでたから、威力を警戒して下がった。危険が来ることは分かっても、それがどんな危険かは、自分の目で判断してるってことだ。
おかげで此方から奴に攻撃しない限りは、俺の動きを予測できないから、とっ捕まえる事が出来た。あとはお前のおかげだよ…」
戦闘中、白島はテルに合図をした。『俺が動きを止める』その一言を信じられたからこそ、通常の戦闘から気配を徹底的に隠す動きに特化した、暗殺へと切り替えた。もし白島が動きを止める事に失敗していたら、隠密中の無防備なテルに攻撃が向いていたはずだ。
「さて、コイツらをどうにかしねぇと…今回はあいつを頼るしかねぇな…」
白島は肩を押さえるのをやめ、携帯電話を取り出しある番号へ発信した。
呼び出し音の後にこの場に似つかない程軽快な返事が受話器越しにまで響く。
『もしもーし!毎度ありがとうございます!千坂クリーニング店です〜』
「…俺だ、白島だ」
『お?白島クン?久しぶり?!珍しいなあ電話してくるなんて。…で、どうしましょ?』
掃除屋の余りの声量に、気分の落ちていた運び屋は携帯を耳から少し離して話しかける。
白島がこの掃除屋を頼る時は現場にやっかいそうな死体がある場合に限る。
「…5人くらいか…頼む。場所は後で伝える」
『多ッ!揉め事でもあったん?』
「そんなんじゃねえよ…。お前、赤猫って、知ってるか」
電話の向こう側の男がうん?と唸る。白島には彼が首を傾げる仕草がありありと想像できた。
『赤猫…?なんや?聞いたことないなあ』
「そうか。ピンクの髪した派手な男が、その赤猫っていう組織の構成員らしい…。よく分からねえから処理する時には気をつけてくれ」
『りょーかい。料金お高くしておきますわ〜ふふ…ほな、また後で。ありがとさん!』
通話を切るとアシバの遺体を仰向けにして身辺を探るが手がかりになりそうな物は出てこなかった。
そして依頼主に頼まれた荷物を回収する。指定時刻を大幅に過ぎた挙句、いくつか破損している。仕事は失敗だ。届け先がお得意様だった事が唯一の救い…かもしれない。
「とんだ邪魔が入ったぜ…ったく」
二人は急いでこの場を後にした。
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